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映画「一枚のハガキ」感想。

◇キャラママさんに券を売りつけられて、新藤兼人監督の遺作となったこの映画を見てきました。話は単純で結末も言いたいこともほぼわかっているのに、まるで見ていてあきないというか、監督のパワーがすごいなあ。力業の正攻法で押しまくる。脂ぎってると言いたいぐらい、全編がいい意味でぎらぎらむちむちしていて、しかも妙に「知るかーもう」みたいな、これもいい意味で投げやりな前向きのしらっとした感じが、もうこたえられない(笑)。

そりゃね、悲惨な話なんですよ。戦争と貧困がもたらす悲劇が、これでもかっていうぐらい、登場人物たちにのしかかる。しかも彼らは決して弱く優しい被害者であるだけじゃなくて、生きて行くために、というより、生きているとはそういうものやなと思うくらい、残酷で鈍感で、したたかで、しかも、だから、おー、民衆は強いとか思っていると、けろっと、ぱたっと死んだり消えたり、優しかったり切なかったり。

主人公の男女二人は、その中で比較的、どういうかな、立派で強くて、人の犠牲になって耐えてる人たちだけど、それだって、別にものすごく彼らが特別だったのじゃなくて、たまたまそうなっちまったからそうなんだというだけのことのようにも見える。少なくとも、彼らのような人たちは、とてもたくさん、どこにでもいたんだろうな、今でもきっといるんだろうなってことが実感できる。
彼らは誰も恨まないし、抗議もしないし、泣きごとも言わないけど、猛烈に怒って、そして絶望してる。そのパワフルな絶望が、ずきずきするぐらいせまってくる。

役者たちの演技もすごい。そういう、こう、人に訴えるとか、哀れさをさそうとか、強さを見せつけるとか、いらんことが何もなくて、ただもう、それしかないように生きている感じが伝わる。っていうか、この映画、ある意味そういう、手あかのついた「戦争は悲惨」とか、そういうメッセージを何も伝えないような演技が要求されて、それに、きちんと俳優がこたえてる。

まあさ、男優たちが、皆いかにもそれらしいのに比べると、大竹しのぶも倍賞美津子も、きれいすぎるっちゃあ、そうなんだけど、まあ、そのくらいはしかたがないか。倍賞美津子なんて、私お姉さんの知恵子(この字だっけ)の方が好きで、妹は荒削りでごっつい感じだなあとずっと思ってたんだけど、初めてこの映画で、きれいな人だなあと痛感したよ。それでもって、あんなにきれいなのに、もうぬけがらみたいになって、しかも変なとこに毅然としてる、いかにもいそうな田舎のばあさんをちゃんと見せてくれるからなあ。立派というか何というか。

映画館じゃなくて、地域の文化センターみたいなとこで見たんだけど、けっこうなお年寄りもいる周囲の観客が皆、大いにノッってて、私のとなりのご婦人なんか、「えー、ブラジルに行かないで、ここを耕せばいいのに」だの、「この二人が結婚すればいいんやんねー」などと、大っぴらに連れと話してたんだけど、そういうのが妙に似あう映画でもあった。第一、話が単純だから、とてももう、わかりやすいの。誰にでもわかるし、しかも深い。
戦争の悲劇って、こんな風に伝えるしかないんだろうなあ、って、いろんな意味でかぶとを脱ぎました。
第一、いろいろ面白かったし、笑えたし。乾いた笑いだけどね、でも暗くはないのよ、決して。
もう一回見てもいいなあ、って、ちょっと思ってしまいました。

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カツジ猫