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映画「塀の中のジュリアス・シーザー」感想。

◇刑務所の囚人たちが、「ジュリアス・シーザー」を演じる話、とだけしか知らなかったんですよね。ただそれだけで何となく、面白そうやん、と思ったのですが…どことなく、ほんとは、あんまり期待してなかった。題材がすでに面白すぎるから、きっと何だかいろいろ、いらんことして、ややこしくして、どっか気の抜けた、わけわからんゲージツ映画見せられて、まあいっか、そこそこ楽しんだんだから、と自分をなぐさめて帰ることになるんだろうなー、と何とはなしに思ってました。何しろ迫力のないCGトラやら、はちゃめちゃぶりがピントをはずしまくってるダイ・ハードやら、最近どうも映画と私の相性はぱっとしてなかったからなー。

したらば、この映画、いい意味でみごとに予想を裏切った。
何しろもう、ほんとに何にもしないんですよね、「囚人がシェイクスピア劇やる」って以外は、みごとになーんもない映画です。ちらちら、囚人たちの過去の人生やら現実の人間関係やらが、役の上、舞台の上のそれと重なるところなんかもあるんだけど、それだって、もう型どおりというか、意外なものは一つもないし、まあ最低そのくらいはあるだろうなというか、まあこのくらいはやっとかないとしゃあないなというか、できたらきっと監督は、そういう程度のことさえもしたくなかったんじゃないかって思うぐらい、すべての展開や設定が「囚人がシェイクスピア劇をやる」って話のじゃまになりません。

あー、うまく言えなくてじれったいよー。
つまり、この映画は映像も筋書きも何もかんも、どうでもいいんです。手抜きというか、いいかげんに片づけるというか、脇役というか。
結局、ひたすら、撮りたいのは、見せたいのは、「囚人がシェイクスピア劇をやってます」ってことだけで、それをじゃまするものは、もうまったく、なーんにもない。
よって、「囚人がシェイクスピア劇をしてる」のだけを見たくて、見に行った私なんかのような人間には、もう最高の映画なんです。
あの、私、これ絶対、CGトラ映画の悪口のつもりで言ってるんじゃありませんから(笑)。でもま、そう聞こえてもしかたないかな。

◇だから、手のこんだこととか、ややこしいこととか、こじゃれたこととかを求める人にとっては、ものすごくつまらないし、ものたりないのかもしれないんですよ。そういう意味ではすごい冒険、そういう意味ではすごい自信。この映画の作り方は。
さっき、手抜きで、いいかげんと言いましたが、もちろんそれは、全力こめて、精魂こめて、手抜きし、いいかげんにやってるんですよ。いらんことはいっさいしないし、でしゃばらない。監督がほれほれほれとヒラヒラ踊りまわってみせない。あ、トラ映画の悪口じゃないですからね、くれぐれも(笑)。

いいかげん、しつこいと言われそうなの承知でまた言うと、これはただもう、いやが上にも、あくまでも、「囚人がシェイクスピア劇をやってる」のだけを見せる映画です。それだとドキュメンタリになっちゃって、それだと、また別のややこしい要素が入ってくるから、適当にほどよく、ほんとにもう、どうでもいい程度の、お決まりのフラッシュバックや人間模様をくっつけて、最低、虚構の映画っぽくして、そうすることで、ドキュメンタリでもまじってきてしまう、雑多な要素を全部省いた。虚構のお話の部分は様式美と言いたいぐらい、ありふれた、手あかのついたものにしといて、観客がいらん興味を持たないようにして、あくまで、とことん、シェイクスピア劇を演ずる囚人たちだけを見せたんですよ。

◇もう、嘘だと思うんなら、最初の数分を見て下さいな。この映画にはネタばれなんぞ、ありようもない。というのは、冒頭でいきなりもう、一般の観客が刑務所に来て、囚人たちの劇を見ていて、劇はもうクライマックスで、名演技で大成功でカーテンコールで万雷の拍手で、観客は満足して帰ってって、囚人たちはまた独房に戻ってって、そこまで開始から多分10分ぐらいですよ。すごかろ?(笑)

昔、老人ホームの認知症めいた人たちもふくめた入居者たちで「リア王」やったドキュメンタリを見たけど、それだってラストは公演の舞台でした。大抵がそうですよね、こういう話は。そうでしかありようがない。苦労して、いろいろあって、うまく行くのかなあ、と心配させて、最後はそれなりに大成功で感動を呼ぶ。
でも、この映画はもうそれを最初に持って来ちゃってる。舞台の成功を見せたあとで「六か月前」とか字幕が出て、刑務所内のオーディション場面から始めるわけです。うまく行くのか?成功するのか?って最大の観客をひっぱる興味を、最初にばっさり切り捨てている。

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カツジ猫