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映画「戦雲(いくさふむ)」感想(2)

第二次大戦のとき、沖縄は唯一の日本での地上戦の舞台となり、広島長崎の原爆や東京大空襲などと同じように酸鼻をきわめた犠牲を生んだ。その南方のこれらの小島でも同様の状況はあって、ガマにこもって降伏し、かろうじて助かった生々しい体験などを人々は語る。だからこそ、戦争への恐怖と嫌悪は実感をともなって強烈だった。だから反対運動も起こった。それがなぜ、大きな力とならなかったか。

国がもう圧倒的に強行した、としか言いようがない。感情的に言ってしまえば、どうせ誰にも注目されない遠くの小さい島だから、なめていたのだろうとさえ私には思える。説得も対話も充分になされないまま、着々と早々と、工事の数々は強行されて行った。
 上映のあとで、観客の一人が私に語ったように、「結局は金ですよ。それでどんどん土地を奪って行くんです。うちの郷里の(九州の)豊津なんかも今その通りです」ということもあったのかもしれない。映画はそのようなことを声高には語らない。だが、初期に反対の署名活動をした島民の一人が、車で通り過ぎながら、「ここの団地ではたくさんの人が署名してくれたんですよ。でも、そのあと、署名した人たちに圧力がかかったようで、そんな迷惑をかけてしまったことが申し訳なくてね…」と語ったような事実は多くあったのだろう。怒りよりも自責の思いをこめた、そのつぶやきからは、それらのことが反対運動をいかにひるませたかも伝わって来た。
 ある島では若者たちが反対の署名運動をくりひろげ、工事をくいとめるに充分すぎる数を集めた。だが自治体は条例を変更し、その署名の効力をなくした。
 そういう理不尽なことも、それにともなう島民の分断や対立も多くあったのかもしれない。しかし、この映画は、それについてはむしろひかえめで、決して激しい怒りや抗議を直接には示さない。

映画の冒頭は、緑の草原にたたずむ一人の高齢の女性が「いくさの雲がひろがって、恐ろしさに眠れない」といった歌を、現地のことばで優しくも力強く歌う場面から始まる。気品と知性の漂う面持ちのこの女性は、ずっと反対運動を続ける人の一人であり、そのような男女や家族の姿も、映画の折々には登場する。一人は若者たちの署名活動が本当にうれしかったと語り、幼い時に母に抱かれてデモや座り込みに参加し、「カメラで撮られると警察官は暴力をふるわない」と聞いて、脅えて泣きながら母をかばって必死でスマホをかざして撮影していた少女が成長して地元の議員に立候補し、トップ当選を果たして基地問題について鋭く正確な質問を行う映像も登場する。しかし、これらの人々の表情や声音のどこにも、怒りや悲しみはあっても、決して憎悪や絶望はない。ひとつまちがえば、のどかすぎると見えてしまいかねないほど、彼らの雰囲気は穏やかで暖かい。予告編は力強いが、これらに出てくるような激しい場面は、むしろ全体としては、とても少ない。

まだ続きます。なお私は一度見ただけなので、細かい点でのまちがいがあったらお許しを。DVDを買おうと思ったのですが出ていないようで、代わりに書籍がいろいろありそうなので、詳しくはそちらもお読み下さい。(つづきます。)

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