映画「戦雲(いくさふむ)」感想(1)
ざっくりと言ってしまうと、これは日本政府が国土の最南端に位置する、いくつかの小さな島に、大きな自衛隊の基地や施設をどんどん作って、地元の人たちは心配し反対もし疑問も持つが、国はそれを力で押し切って一方的に島を軍事基地にしてしまって行く話である。そう言うともう身も蓋もないし、見る前からあんまり楽しくもない気がする映画だが、実際の内容としてはそうである。
国は現地の人にていねいな説明はしない。どんどん力で押し切って行く。反対運動も起こるし、ニュースなどで見慣れた、工事をとめようとする座り込みやデモや抗議行動が起こるが、それらは力づくで排除される。次第に反対派の数も力も衰えて行き、ずるずると見る見るうちに、森や空き地が切り開かれて、広大で立派な演習場だの建物などが、にょきにょきと出来上がって眼の前に現れ、そこに武器や戦闘員がどんどん運び込まれる。そう聞いただけで、ますます見る気が失せる人もいるだろう。しかし、結局はそういう話ではあるのである。
そうかと言って、住民たちの戦いは別に血湧き肉躍るものでもないし、悲壮で涙がこみあげるものでもない。つまり、国や戦争に反対の人が、何かを決意しようとか感動にひたろうとか覚悟を決めようとか、そういうことをめざして見に行っても、あんまりそういう風の盛り上がり方はできないのじゃないかと思う。
この映画は、そういう極限とか悲劇とかを見せる映画ではない。戦いも対立も、日常の中で、ごちゃごちゃと皆が過ごす中で、行われるし、進められる。もどかしいとか中途半端とか感じる人もいるだろうが、そういう点ではわかりやすくないし、ドラマチックでもないし、かと言って、芸術映画っぽく、深刻で暗くもない。
登場する島々は、沖縄本島と比べても、どれもとても小さい。与那国島、石垣島、宮古島、など、天気予報や台風情報などでよく聞くから、名前だけはわりと知られているだろう。でも、私自身も、これらの島々について名前以外の知識も情報もほとんど持っていなかった。実は映画を一回見たぐらいでは、今でもまだ、どこがどこやら、ちゃんと区別がついていない。
ただ、その島の風景を見た。浜辺を、海の色を見た。住む人たちの姿を見た。働く毎日の風景を見た。デモや座り込みや説明会以外の、たくさんのその人たちの生活と景色を見た。それはもう、私の目からも肌からも離れないし、消えない。
これは、そういう映画である。(続きます。あー、きっとまた長くなる。)