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映画と小説「小さいおうち」感想。

◇うーん、やっぱり山田洋次に「小さいおうち」は無理だったか。
公開早々、今日見てきたのですが、まあ松たか子と黒木華は、さすがにうまかったからそこは何とか楽しめた。昔らしさや大正ロマンだか昭和ロマンだかもまあ、そこはかとなくはあったかもしれない。

原作が、すみずみまでみっちりつまったすきのないフルーツケーキみたような内容だから、映画にした時点でもう、あらすじなぞりになってしまって、すかすかになるのは、まあしかたがないかもしれない。何しろ山田洋次だから、あっちゃこっちゃに、あー、そこはもう、言わんでいいのにという「戦争反対、平和が大事」というスローガンやアピールがにじむのも、まあ、目をつぶろう。

私だって、そのスローガンには全面賛成なんだから、こんな批判はつらいのよ。でも、しょうがないんだよなー。
原作は、戦時下でも美しく楽しい街の暮らしを描いていた。それが皮肉でも陰画でもなく、そのままに、戦争の恐ろしさ、それを支える平和の罪深さを完璧に告発していたのが、すごかった。幸福と不幸、異常と正常の表裏一体、どんなに説明しても理解できない過去と現代。そういうもののもろもろが、どんと投げ出されてそのまま伝わる、あのすごさ。あれを映画化しようというのが、そもそも無理かもしれないけど、それにしても、もうちょっとどうかした、まちがいかたは、なかったもんかね。

◇映画のワルクチがそのまんま原作ぼめになっちゃうんだけど、松や黒木(なんか山林関係の話みたいだが)は見てていやじゃなかったけど、じゃ原作のイメージかというと必ずしもそうじゃない。板倉の吉岡も、社長のラサールも、夫の片岡も、絶対こんなんじゃないとは思うけど、でもじゃどんなんかというとわからない。
うすうす感じてたんだけど、あらためてわかったのは、原作の人物って、板倉を筆頭に、全然イメージが定まらないし、どんな外見かまるでわからないんよね。ひょっとしたらキャラが立ってないんじゃないかと思うぐらい、誰のイメージも鮮明じゃない。だけど、それで困らない。その方がいい。おぼろで、あいまいなのに、皆、おっそろしく存在感があって、役割をきちんと果たして、作品の中で生きている。「小さいおうち」のこの手の人物描写って、実際、絶対、研究や分析の対象にしていいぐらい独特だ。

だからさ、映画の中の人物が少々変でも、どんなでも、原作のイメージとはそうはずれないと思う。たいがいの役者を使っても、たとえば美輪明宏が吉岡で樹木希林が奥様でも、何とかなるかもしれないぐらい(さすがに無理か)、幅を持たせた描写だと思う、あの小説は。

◇だから問題はそんなんじゃない。結局、私が一番あー、だめだろそれじゃと思ったのは、あらためて確認できたんだけど、原作って、すっごくお洒落な小説なのよね、あらゆる意味で、いろんな意味で。それが映画だと、徹底的に野暮ったくなり、泥臭くなる。

以下、ネタばれっす。

原作にも脚本にもない台風の夜のキスを、監督は随分悩んで迷ってつけ加えたらしい。松たか子がうまいから、被害が最小限ですんでるが、だいたい、こんなこと悩む時点で、私に言わせりゃわかっとらん。
原作では、時子奥様の不倫は、結局のところあったかどうかさえ、ぎりぎりのところじゃわからない。だからこそ、虚実不明の深淵が開き、読者を戦慄させる。

私が原作でいっちばんすごいとかぶとを脱いだのは、女中のタキが書いた手記の中で、後から考えると「嘘かもしれない」という部分が、それをまだ知らないで読んだときに、とても美しくてどきどきするけど、なんだかどっか作り物っぽくて、そこだけ浮いて見えたことです。うまく言えないけど、「作者はここだけ、昔若いころ書いて、何十年かあとに全体を書いたときに、昔の文章そのまま使ったのかな?」ってそんな感じがした。私がよくそんな書き方してたから(笑)。ちょっとだけだけど、異質な、密度がちがう感じがした。そしたら、あとで、そこだけが嘘かもしれないってんじゃないですか。もう、柔道か相撲で、気持ちよく投げ飛ばされたみたいな爽快感さえ感じましたよ、ええ。

なのに、あんなに二人をはっきりべたつかせたら、もうその後の、下世話に言うと「やったか? やらなかったのか?」ってスリルが、完全になくなってしまう。帯のことも、手紙のことも、何の盛り上がりにもならない、ただ退屈。だって、やってるに決まってるし、やってないまでも、やる気になってたに決まってるし、全然面白くもなんともないじゃん。
限りなく怪しいけど、限りなく潔白かもしれないから、色っぽくてスリリングで、いやらしいんじゃないのさ。あー、もうわかっとらんなー。監督、まじめで、いやらしくない人なんだろうなー、そこんところは、つくづくわかる。いったん、切ろか(笑)。

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カツジ猫