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母と、母の母(9)

最近、私の解説が長すぎるんで、なるべく解説がいらなそうな手紙を選んでます(笑)。
尾平さんという方からは母にいくつか手紙も来ているが、どういうおつきあいだったのか、よくわからない。他の方々についても同じだ。
税務署の調査は毎年来たそうで、母が職員の方と交わした攻防については、いくつか武勇談を聞いた。祖父を手伝っていた医師の叔母が緊張してあたふたしがちなのに対して、医療事務を担当していた母は相当なピンチでも切り抜けたようで、「私はあんな時にまったく動揺しない」とうそぶいていたっけ。たしかに、どんな非常時でも母は頼りになる人で、叔母はどこやら危なっかしかった。
長崎に森崎家具店馬場家具店は今もあるが、まさか同じ店なんだろうか。
机上鏡台って、こんなんですかね。ようわからんけど。

写真は祖母がお茶の時にお客に出していたコースターです。

御手紙有がたう 今学校といふ学校はどこも学期試験入学試で上は大学から下は幼稚園まで試験地獄でなやむ人があまりに多いやうです 来る年も来る年も同じ心配で春とは云ひながら自分ばかりではなくあなた方も四人共々試験最中だし人がくるしむのを見たり聞いたりすると誠に同情せざるを得ない理で全くなやましい限りですね 兄さんも大学の試験てこんなにも苦しいものだろうかといってます
元も仲々本腰をすゑて夜中も二時三時までやって居ます 昨日南生ちやんから便りがあって十八日が卒業式だからその夜立ち十九日の朝は内に着くといってよこしました 皆して待って居ります 兄さんは十五日に済んでその日に立つそうですから十六日の夕方には帰宅します
 この間の元 画やつと届いてとてもよろこんでたのに何ともいってやらなかったの お母さんも薬価受取や税務所から調べに来るやら看護婦達にモスを一反づゝ買ってやろうと中津行をするやらかれこれして遂書かないで居りました 人間ってどこまでも勝手に出来てるのネ 頼む時はせっせといってやってさ 元は又殊に呑気坊さんですからね
ほんに尾平さんもいよいよお卒業ね 早いもの 初めてあゝしてお世話に成った時の事をおもふとまるで夢のやうね さて好い記念に何がいゝでしょか 荒木のおばさんはね 鍋島の文ちやんが卒業する時にはあの森崎家具店や馬場家具店に売ってある朱塗りの小さい机上鏡台を送ってました 値は二三円するでしょ あれなど一寸何時までも残る記念品にはなるね ハンドバックなども何ふでしょか 誰も持っては居る品でしょが変ったのを別に持ってるのもうれしいことゝ思ひます 和服物の附属品になると帯止(一円五〇か二円位)帯〆(一円か一円二十位)などいゝでしょ 室内かざりなら唐人船など他国では□たしいでしょ でも是は値が張るでしょ 誰かとおもやひしてもよいことないの そしたらモス一反位はり込まれますね 学年末は仲々世話ね 兎角何もかもすませて早々帰るのを皆して待って居ります 植田さんも今度は大分考へたのでしょ 段々そうやってよく成って行くのは先づいゝ方です 人によると益々つまらなく成って了ふ人がありますがね 田中さんも最ういゝかげん止す時じゃないの 中津から誰か行くでしょか 去る廿七日行ったけど車中からふり出し歩くことも何ふすることも出来なくて店から自動車で急ぎ一汽車で帰って了ったので教会の人達とも遇はず了ひでした 誰かに遇ったらひょっとしたら分ったかもしれないけど いづれ教会関係の人でしょ 西川の娘は来てないの 今度は何ふせ新入生を預るのでしょね お天気が今日はふり明日はあがるといふ工合でさっぱり定らないからよく用心してね 又上げます 返事まで                              母より
 澪子様

 (三月二日)

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