母と、母の母(10)
この手紙もあまり解説はいらない。田舎暮らしを満喫している幸せそうな内容だ。使用人の朝鮮人、金さんとの深い信頼関係もよくわかる。封筒に「八日」とあるのみで年月は不明。宛名の住所もないので、小包に同封した手紙なのだろう。
少し前の手紙に出てきていた「おばあさん」は、この果物売りのおばあさんのようだ。「五年坊主」の親戚の子は入院していたのだろうか。
芋掘りの記憶は私にもある。裏の畑の畝いっぱいに、濃緑のさつま芋の葉が茂って、まるで海のようだった。つるを引くとずるずるといくらでも芋が地中から出て来るのが面白くて楽しくて私は畝の間を転げ回っていたのを覚えている。祖父母も母も皆総出で、皆で笑っていた。その後に食べた芋もおいしかったと思うが、それよりも豪快で愉快だった芋の葉の中で泳ぎ回った思い出の方が鮮やかに刻み込まれている。
漬物の話も出てくるので思い出すが、食卓にはいつも、この写真の漬物鉢があって、白や黄色の大根の漬物が入っていた。漬物に関心がなかった子どもの私は食べたことはないが、食事と切り離せないなつかしい鉢で、今は私はアクセサリー入れにしている。
昨七日は元あてに写真ありがたう 御父さんと二人してとてもよろこんでました そしてお父さんが澪子にこうして小使をつかわせてお金は持ってるだろうかと仰言るので持ち合せのさつ二枚入れてをいたのよ 五年坊主も七日に退院しましたのでほっとなりました 荒木のサ―坊にもくわしく知らせてやりましたけどあまり親しくしてなかったと見えて何とも云って来ませんよ 元ちやんも今度の臨時試験はよかつたと見え組では二番全体では十番位でしよ 至って呑気で勉强すれば一番にはたやくなれるとうそぶいてますよ この二三日お芋ほりしてますがあまり沢山出来過ぎて賣りましょかと大笑らひしてます 元は昨年のやうに丸焼きして甘い甘いとよろこんで食べてます 干柿も日々渋が取れてかわいて行きます 今年は漬大根も六百□出来 白菜もどつさり出来てますので甘く漬け込もうと楽しんで居ります 田舎は人との交さいに気苦労も要らず衣裳もいらずわづらわしい世間からはなれて気らくなことです 大豆も沢山取れましたからお味噌をつくろうと云ってますところよ 是で家をはなれてるあなた達三人が病気さへしなければ何の案ずることもなく幸せなことです 果物賣りのおばあさんが金さんに富有柿を持ってくるからと道で云ったそふですから最う直ぐに持って来ますでしょ そう云へば金さんも嬢さん方に何か送りましょと云ってますが さあ何を送るつもりでしょか ほんとに是位よく忠実に働く人は一寸ないでしょ あゝして縄をせっせと暇の時にはなってましたが ちりもつもればで最う百円貯金しましたよ 南生子ちやんには別にかゝないからこれをよませて頂だいね
母ゟ
澪子様