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沖ノ島の世界遺産登録について(1)

◎じゅうばこさんからの勧めもあって、二年ほど前に書いた文章を紹介しておきます。長いので、いくつかにわけます。

沖ノ島の世界遺産登録について             板坂耀子

 私は宗像在住の年金生活者です。数年前まで福岡教育大学に勤務し、日本古典文学を研究してきました。専門は江戸時代の紀行文学です。
 在職中も現在も宗像市にはさまざまにお世話になったし、おたがいに協力もしてきました。住みやすい良い町だと思っています。また宗像神社も好きでよく参詣しています。

 自分の専門分野の紀行文学を研究していると、江戸の女性たちが旅をする時のさまざまな苦労の中に女人禁制の社寺に行けない不満や失望がときどき書いてあります。また男性の紀行の中にも「昔は女性に危険な場所だったから便宜上女人禁制にしたのだろうが、現在では意味がなく廃止したがよい」という記述も見えます。そうした文章を読んでいると、この人たちの気持ちを今の皆さんにも伝えておく責任を感じます。
 また女性研究者の少ない中で男性と同じ職場で働き続けるためには、さまざまの不便や不快を感じて来ました。私の同世代も前の世代も多くの女性たちがそのような状況を変えるためにがんばって来ました。今、それらの多くの状況はかなり改善されていますが、それは決してひとりでに変わってきたものではなく、多くの女性と男性の苦労や努力によるものです。私たちもまた未来の女性と男性のために、少しでも住みやすく暮らしやすい職場と地域を作って行く義務があると考えています。

 そのように考えた時、私はあらゆる女人禁制に反対です。ですが、もちろんさまざまな意見があることでしょうし、宗像大社が沖ノ島を女人禁制にしていることについては、決して賛成ではありませんが早急に女性に開放することを要求するつもりはありませんでした。
 しかし、世界遺産の登録を宗像市が要請し支援するとなるとまったく話がちがいます。女人禁制という制度を持つ場所を宗像市の公認のもとで、世界に推奨するとなると、それなりの理論や説明が必要になると思います。
 くりかえしますが私はあらゆる女人禁制に反対だし、あえて言うなら強い不快感を持ちます。しかし、これもまた、宗像市民全体がどう考えるかはわかりませんし、充分な討論の結果、多数の市民がそれでいいと認めるのなら私は「自分は不快で、この世界遺産は恥ずかしいと思っている」ということを、あらゆる場所で発言しつづけては行きますが、それ以上の反対をするつもりはありませんでした。
 しかし、この間の宗像市の活動と、それを支援する福岡県の活動を見ていて、どうしても不安なのは、沖ノ島が女人禁制であるという事実をほぼ完全に伏せたまま、宣伝や広報が行なわれていることです。市民に討論や意見交換の機会が与えられないばかりか、外部への発信にも女人禁制のことはまったく語られていません。先日行なわれたシンポジウムに参加してみましたが、そこでも数時間に及ぶ報告の中で、女人禁制はまったくことばとしても出ませんでした。
 このような宣伝活動に私は宗像市民として、強い不安を感じています。

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カツジ猫