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渡せなかったチョコレート。

◇今日は選挙の投票日前の最後の授業だった。棄権も自公に投票する者も多いだろう、20人ぐらいの若者を前に、言いたいことは多くあった。しかし、一言も言えずに、まるで関係ない国文学の論文の書き方などを指導して帰った。
自分のしたこと(というかしなかったこと)を後悔してはいない。後味も別に悪くはない。ただ、渡しそこねたバレンタインデーのチョコレートのように、やたらと切ない(笑)。

あなたたちの一人一人を愛している、と言いたかった。
たとえ、どんな思想でも主義主張でも、どこに投票するのでも棄権するのでも。
幸せになってほしいと言いたかった。
いろいろあっても、これからどうなるかわからなくても、私が幸せであったように。過ちや罪をさまざまに犯しても、何とか何かに許されて、今こうして無事で生きているように。

だから、どうか自分たちの人生と権利を守ってほしいと言いたかった。
人まかせにせず、だまされず、おどかされず、まちがってかまわないから、見極めて、考えて、投票に行ってほしいと言いたかった。

あなたたちを戦争に送り出し、ささやかな幸福も、大きな夢もすべて破壊してしまう、そうなる可能性を危険性を、全力で避けろと伝えたかった。

具体的には絶対に安倍政権とそれを支持する人たちには投票するなと言いたかった。野党共闘に、できればその中でも一番たしかな共産党に、今回はとにかく入れろと、それだけ一言言いたかった。

けれども何も言えなかった。

◇せめて、投票に行けとだけでも言いたかった。
けれども、それも、言えなかった。

何より、猛烈に私が怒っていることをわかってほしかった。
学生にではない。若者にではない。国民にではない。

いささか選挙に関わる中で、公職選挙法がいつのまにか、どんどん変えられていたことを、肌身にしみて感じた。候補者の名前も主義主張も、政党の宣伝も、ものすごく制限され、演説もチラシ配布も、印刷物を配るのも送るのも、ひとつまちがえば逮捕される。もはや、この国の選挙制度はなかば首をしめられ息の根をとめられかけていて、国民に投票するための資料や情報は、ほとんど伝わらないようにされている。

そうしておいて、投票率の低下を言う。国民の、若者の、政治離れを嘆き、何とかせねばとえらそうに言う。
両手両足しばっておいて、目かくしをし耳栓をつめておいて、行動しない見ない聞かない無気力と、したり顔にお説教し、国民が若者が悪いかのように罪を着せる、この無意識か意識してかはわからないが、大人や社会や支配者のずるさ、図々しさ、卑怯さに、私は本当に耐えられない。

その怒りを伝えたかった。自分たちが不勉強で無気力で政治に無関心なことに、罪悪感や責任感や劣等感など死んでも感じるなと叫びたかった。どこまで人がいいんだ、どこまでバカにされれば気がすむんだ、権利をとりあげられ情報を奪われて、殺されかけていても、自分が悪いんだ、自分の責任なんだと思うなんて、そんなお人よしに絶対なってはいけない。

だから、何をするかは自由だ。投票に行っても行かなくても、無関心でもそうでなくても。
悪いのは自分たちだと、絶対に思いこまされるな。
そうされようとしていることを知れ。怒れ。抵抗しろ。されるままになるな。
決めるのは、あなた方だ。
どう決めても、あなた方の未来だ。
私はそれを、認めて、支持する。

そう言いたかった。本当に、心から。

だから、何も言わなかった。

私は、あなた方を、信じる。
自分に都合のいいことをするだろうと、信じるのではなく。
あなた方の、決定を、私は、信じる。

私の沈黙と無言の意味は、それだ。

結局、チョコレートは、渡せたのだろうか。

私には、わからない。

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カツジ猫