私なら許さない。
◇門司港の花火大会から、今帰宅。庭に水やリをして一服したところだ。
ももち、宮若、大濠、芦屋、福津、直方、門司港と渡り歩いて、これで今年の花火見物は一応おしまいかな。地元の宗像のはコンサートか何かとセットになってて高いし、時間が長いしでパスすることにしている。私なりの夏のイベントは終わったので、これから仕事にはげむぞう。
でも、あいかわらず暑いなあ。朝、いよいよ書庫に手をつけようとしたが、少し本を移動させただけで、だらだら汗が流れて早々に逃げ出した。夜明け前にやるとか、冷房の効いたところに運んで整理するとか、何とか考えないといけない。
◇門司港の花火は、海峡をはさんで遠く下関のも見せるという趣向で、豪勢でよかった。しかし、ものすごい人出で、しかもJRの門司港駅しかアクセスがないので、大変な混雑だった。あれは来年は、ちょっと二の足を踏む。
あいかわらず、浴衣姿のカップルが多い。しかし、この前ラジオでタレントかパーソナリティーか何かの若い女性が、花火大会で恋人と別れたと言っていた。食べるものもしんぼうしてためた一万円余で浴衣の着付けをしてもらって、しっかり決めて行ったのに、ろくにほめてもくれなかったんだそうだ。
そう言えば、昔、研究室の学生が、やっぱり恋人が花火大会でもたもたしてるのが、いやになって別れたみたいなことを言ってた。たしかにな、私なんか一人でも、あれこれ気をつかい、くたびれるのに、あれで人がくっついてたら、正直地獄だと思う。場所取りとか往復の交通手段とか、花火大会ってデートの場所としてはかなりハードル高いぞ。
◇ゆうべ悪口を言ってた文庫本は「グレースの履歴」で、あのあと読んでしまった。予測したほどひどくはなかったけど、基本的にやっぱりいらいらした。どうでもいいのだが、私がこのヒロインの夫なら、彼女のしたことは絶対に許せない。こんなにお膳立てされた人間関係は、知ったとたんに完璧に否定して、縁を切りまくり、ついでに妻のことも忘れて、車も売る。だけど私はこの夫ではないから、ヒロインもそんなことはしないだろうし、第一愛しも結婚もしないだろう。だからまあそれでいい、勝手にやっとけというだけのことだが、それにしても、よくもこれだけ、他人を理解していると信じられるものだ。夫であれ恋人であれ、そこまで完全に把握していると思いこめることに、私はあいた口がふさがらないレベルで、あきれる。
もう一つ、彼女の計画は最後に近く、ある思いがけないことが明らかになって、大幅な修正をせまられる。相当、根幹をなす部分の修正である。で、私がまた、あいた口がふさがらないのは、サプライズパーティーぐらいの冗談ならともかく、大勢の人の人生巻きこんで、一かばちかの賭けをするわりには、このくらいのことは当然想定内でなくちゃおかしかろ。予想もせずに、これだけのはた迷惑な大プロジェクトをしたのなら、それはやっぱりアホというものではあるまいか。
彼女にひっかき回される、夫やその関係者の人生は、誰でもそうだが、微妙で精密な要素で成り立っている。それを動かして何かをしようとするのなら、もっと幅をもたせた計画であるべきで、こんな自分の筋書通りに細かく動かせると思っているなら、このヒロインは他人の性格や人生が、ものすごく大味で大ざっぱなものとしか見えてないことになるし、それは、とりもなおさず、彼女自身が大味でがさつで大ざっぱな人間なのだということでしか、あり得ない。
ヤスミナ・カドラの「テロル」は、愛し理解していた妻が自爆テロをしたことに衝撃を受けて、その足跡をたどろうとする裕福なエリートの夫が主人公だ。彼の作品の中では、ものすごく出来がいいものではないかもしれないが、少なくとも、自分の死が、夫に何をもたらすか、知らないわけはなかったろうに、何のケアもしないで自爆テロをやって消えた、この妻の方が私にはよっぽど尊敬も信頼もできるし、愛せる。