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9条球場

デフォーの「ペスト」をやっと読み終わりました。面白いのだけど、何しろ分厚かったもんで。
でも、本当に読みやすい。悲惨な話だし、資料っぽく書いてるのに、全然退屈じゃないし、気味悪くもおぞましくもない。からっとクールで明るくさえある。しかもまじめで、品もある。

橘南谿の文章を思い出す。良質の、手だれのジャーナリストの書き物って印象。文体はちがうのだが、小津久足も、こういう状況下では、こういう感じのものを書きそうだ。
中村幸彦先生が、何かの席で、「中世までの軍記物の役割が、戦争のなくなった江戸時代では災害ものに引き継がれた」とおっしゃったのも思い出す。江戸初期の大火事を描いた「むさしあぶみ」や、大田洋子の原爆を題材とした作品のように、広い言い方でのパニックものは、どうかすると煽情的にもなりかねないが、人間の尊厳や神の存在にふれるきっかけにもなる要素も持っている。

デフォーの「ペスト」は、フィクションなのだが、よく出来たノンフィクションのようだ。ロンドンにペストが流行ったときは作者は五歳で、叔父の体験を聞いたのがもとらしいが、もちろん他の調査もしたのだろう。

今、このコロナ騒動の中で読むから、なおそのリアルさがわかるという点もある。逆に言うと、この状況の中で読んで、現実はこうじゃないよと思わせないところが大したものだ。

発症した人は家族ごと家に閉じこもらせて番人をつけるのだが、その政策が正しかったかどうかの判断は難しいとか、船に乗ってテムズ川に浮かんで難を避ける人々とか、安全な田舎に逃げる人々とか、それを拒否する田舎の人とか、現在の状況といろいろ重なり合って時々、あっとかおおとか声を立てたくなる。

大所高所から俯瞰したような全体像と、カメラがずーっと寄るような、個人や小さな場面の挿話のバランスがよくとれていて、読みやすい。
パンをはじめとした食料が不足しなかった事情とか、感染の過程とか、死者を運んだり葬ったりする危険な職業の人が死んで人手不足になりそうだが、仕事がなくなって困った人がどんどん応募するから困らないとか、もうなるほどなるほどみたいな話ばかり。

聖職者や医者たちの活躍も、市長たちの頑張りも評価されている。そして、いろいろ今日と共通する事象も多い中に、医療関係者や配送業者への差別はまったくと言っていいほど出て来ないのは、あたりまえだが、今の日本よりははるかに上等ってことか。コロナと比べ物にならない死に至る疫病のペストなのに。

まあほんとに、今読むには悪くない本です。いろいろと。

種子法は今国会では見送られそうだが、国民投票法案の方はまだ通すつもりらしいから、ツイッターでも紹介したが、この動画をリンクしておく。「通販生活」の雑誌で写真は何度か見ていた意見広告「9条球場」だが、映像にすると笑っちゃうほど迫力だ。両軍のユニホームの胸に、「GOKEN」「KAIKEN」のチーム名が入っていたのに初めて気づいた。

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カツジ猫