映画「仮面の男」感想集映画「仮面の男」感想(とは名ばかりのおしゃべり)8
でも、そう思ってあらためて「仮面の男」のアラミス見ると、前に私はポルトスとアラミスは後の二人に比べて、原作のイメージのままとか書いたけど、ポルトスはともかく、アラミスはかなりちがうんだよねー。原作だと、もっとカッコつけだし、安っぽいし、いかがわしい。「仮面の男」のアラミスは、もっと正義の味方だし重厚だし皆のリーダーだし知的だし。
役回りはそうなんですけどねー、ジェレミー・アイアンズが悪魔のようにうまいからなのかなー。彼のアラミスは、どっか信用できないんですよね。えらそうなこと言ってて、案外失敗するんじゃないかって頼りなさと、勝手にひそかに何考えてるんだかわかったもんじゃないっていう得体のしれなさと、その両方で。
それはどちらも、原作のアラミスそのもので、その愛すべきいかがわしさが、どの場面でも死ぬほど笑える。
アトスのこの映画でのイメージは原作とちがうように見えて、並べてみると明らかに、アラミスよりはずっと本物だし頼りになるし信頼できるっていうことが、なぜかもう、よくわかる。それはたしかに、立派にアトスなんですよね。演出がいいのか、この水準の俳優になると、演ずる役の本質を勝手につかんでしまうのか。
もう一言言うと、原作もいいんでしょうけどね。キャラが立ってるから、いい俳優なら、やりやすいんじゃないのかしらん。
私が何度見ても笑うのは、しけて落ちこんでるポルトスに「もっと回りの美しさを見ろ、コマドリやハトの鳴き声を聞け!」とか言ってるアラミスで、相手に要求してるのどかさとは、あまりにもかけはなれた、彼自身のカリカリぶりが、その落差が最高です。あれなんか、ひとつまちがえば、やりすぎるに決まってるコントと紙一重なんですが、それをまさに寸止めで止めつつ、めりはりつけまくりの大芝居をしている。
まあ、それは他の三人もそうですけどね。ネットの感想で、バーンが「あの紅バラがこの上なく似あうすてきなおじさま」とか書かれていると、ちがうだろーとくらくら目まいがしそうですが、そういう演技も平気でやれるんですね、この人たちは皆(笑)。
でも、バーンやディカプリオは、まだ表情をはっきり動かしてますが、アイアンズときた日には、ほとんど顔の筋肉一つ動かさないで、視線もそのままで、心の動きを伝えてきますからねー、すごいよ。
これはコリン・ファースもそうだから、英国の俳優さんのお家芸なんでしょうか。
王に呼ばれて、「イエズス会の指導者を暗殺しろ」と密命を受けている時の顔なんて、ほとんどどこも動かしてません。最初に「え?」という顔をして見せるけど、それもまたわざとか本気かわからない。
その時はまだ彼の方のいろんな事情や計画を、こっちは知らないで見ていますが、知らないでいても、彼の無表情な顔を見ていると、ものすごくめまぐるしく彼が何かを考えて逡巡し選択し決断しているのが、手にとるようにわかる。きっと誰にでも、それは伝わる。
ディカプリオが下手とは決して思わないんですけどね、あの場面なんか見てると、アイアンズとああやって演技しながら並んで歩くの、いやだろうなーと、ほんとに同情して目をつぶりたくなってきます。
と、こんな調子ではまったく、いつ終わることやら。