映画「仮面の男」感想集映画「仮面の男」感想(とは名ばかりのおしゃべり)5

あらためて言うけど、ネタばれですよー。

これで、ライバルでも意識してたら、ルイはほとんど「グラディエーター」のコモドゥスですが、幸いそんな存在はなくて、だから何とかまだルイは安定してた。
それが、弟のフィリップが突然あらわれて、王妃もダルタニャンも皆がそっちについてしまう、あの夜の展開は、もう、児童虐待としか言いようがない(笑)。ルイが切れまくるのも当然すぎて、見れば見るほど、かわいそうでなりません。「死ぬまで仮面かぶっとけ!」と悲鳴のように叫ぶルイの哀しさは、見ていて心をゆさぶられます。

あいにく、ほとんどの観客は、このときにはもう、フィリップやら王妃やらダルタニアンやらに同情し、感情移入してるから、彼の悲痛な表情も声も、多分ちっとも気がつかないでしょうけど。もちろん、フィリップ&王妃&ダルタニアンも。そりゃもうめいめい、あの時は自分のことで手いっぱいだから、しょうがないっちゃあ、しょうがないけど、でもちょっとは誰かは、ルイの気持ちにもなってやれよー。

それまで、誰からも叱られたことも、指一本あげられたこともなかったわけでしょ、20歳あたりの、あのころまで。それがいきなり、なぐられ縛られ、拉致され、蹴られ転がされ、それだけでもたいがいのショックでしょうに。今の時代なら、しばらく静養してカウンセリングうけてもいいぐらいのもんでしょうに。

ちなみに、どーでもいいんですけど、地下の水路で小舟から救われたとき、一瞬ダルタニアンがルイを抱きとめてるんですが、何度もしつこく見ていると、この親子はあれほど毎日近くにいても、身体的にしっかり接触したことなんて、ひょっとしてあれが初めてだったのかもなーと思ってしまいます。その直後にフィリップをかばって、ダルタニアンがルイを押し返すのが二回目で、三回目はほんとにラストで、やっぱりフィリップをかばってルイをつき飛ばしたとき。なんとも切ない。まー、ダルタニアンはまだ身から出たサビですが、ルイの方はつくづく孤独だよなーと思います。そりゃ女を抱きまくりたくもなるわなー。

さらに、どーでもいいようなよくないようなことをつづけると、ひょっとしてルイは最後まで、ダルタニアンが自分の何なのか知らないままなんじゃないの? あの映画の中では。
あとで聞かされたかもしれないけど、それにしたって、かわいそうに。
ダルタニアンは、フィリップには、しっかり、しみじみ、自分が何者であるのか名のってますが、君ね、いきなり出来した事態に対応できてないとはいえ、一人に言ったからって、もう一方にも言ったような錯覚に陥るなや。

それは実は前にももう一度あって、クリスティーヌの死の場面も、あれ、ルイは、その前に、ラウルを死なせるような命令を出したのが彼女にばれて、彼女が「人殺し!」と抗議にきたこと、知らないんだよね。だって、そのときはフィリップがすりかわってた時間帯なんだから。
なのに、彼女の死をルイに告げるというか見せるというかするダルタニアンは、あれもう完全に、ルイがそのこと知ってるという前提の態度でしょ。まあ、観客も同じ前提で見ちゃってますけど、多分(笑)。
でも、ルイにしてみれば、クリスティーヌは、ほんとに、いきなり死ぬわけですよ。どっちがショックが大きいかはむずかしいとこですが、とにかく、いろいろ、あの夜のことは、彼にとっては、とても苛酷なことばかりなのに、画面の中でも外でも、誰もそのことに気づいてない。何てかわいそうなんでしょう。

でも、キャラママさんが、カツジ猫のことを、かわいそうにと言いながら、いつも笑いをこらえてるのと同じように、ルイのことを同情すればするほど、何だか笑ってしまうんですよね。「あー、もう、かわいそう」と真剣に言いながら妙におかしくなってしまう。これっていったい何なんだろう。

この大ざっぱな、どっか間の抜けた感じは、原作というか、すぐれた古典のほとんど全部に共通するものかもしれなくて、ダルタニアンだって、そんな風だから、よくよく見てたら相当アホでいいかげんなんですけど、それは原作の彼がもっとずっとそうだし、「うん、やっぱり何だかだって、あんただよね」って、こっちは妙になつかしく納得もするんですよ。
こういう、ゆるさや、のどかさは、意図したものではないんだろうけど、計算して出せるものじゃないんだろうけど、原作の精神をほんとに生かしてると思います。

原作の「三銃士」って、ほんとに、いいかげんに軽率に殺し合うし、裏切りあうし、だから雑でタフなのかと思ってると、アトスは妻の裏切りや息子の死に今の人以上に、どわっと落ちこんで人格変わるし、もうわけわからんのです、誰もかれも。そこが面白いんですけど。古典文学読んでると。今とまったく共通するものもあれば、とうてい理解できない感覚もあって。

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カツジ猫