江戸文学その他あれこれ3-連句の実例
目次
- 1 夕闇にずしりと沈む紅葉かな 耀子
- 2 勤労感謝の日の一人旅 躍子
- 3 台風は西の大地に行ったとか 濯子
- 4 らくだの群が休むオアシス 耀子
- 5 月さえて王子はひとり眠れずに 躍子
- 6 栗の木の実の落ちる音聞く 濯子
- 1 山深くあけびのつるを編みながら 耀子
- 2 地域おこしにたのもしい主婦 躍子
- 3 ケータイをスマートフォンに持ちかえて 濯子
- 4 シェイクスピアも端末で読む 耀子
- 5 電気とて無尽蔵ではあるまいに 躍子
- 6 事故発生のあとはまっくら 濯子
- 7 気がつけば病院にいた誕生日 耀子
- 8 年の暮れにはつい飲みすぎる 躍子
- 9 どこまでも花咲く里を夢にみて 濯子
- 10 すみれたんぽぽ小川のほとり 躍子
- 11 水ぬるみおたまじゃくしも浮かれ出し 耀子
- 12 新人歌手に声かけるファン 濯子
- 1 雪の中一機も飛ばぬ飛行場 耀子
- 2 爆撃もなくただ年が明け 躍子
- 3 鏡餅ひっそり飾る母と子が 濯子
- 4 肩を寄せ合うアパートの窓(シクラメン咲くアパートの窓) 耀子
- 5 いつからか君とこういう仲になり 濯子
- 6 金魚すくいに一喜一憂 躍子
- 7 夕立にあわてふためく屋台客 濯子
- 8 ビール片手に行ったり来たり 耀子
- 9 九回の表に点が入るとは 耀子
- 10 秋空高く白球が舞う 濯子
- 11 練習の帰りの道は月明かり 躍子
- 12 虫の声さえピアノのようで 耀子
- 1 歌おうか歌うまいかと迷う日は 躍子
- 2 重苦しくも式は始まる 耀子
- 3 被害者と加害者和解すまぬまま 濯子
- 4 蛙がはねる田んぼ道ゆく 濯子
- 5 山裾は花の衣に埋まって 耀子
- 6 ゆっくりすする七草の粥 濯子
(授業で学生に連句を説明するとき、芭蕉の句は難しいので、私が作った連句を見せて説明します。下手なのはわかってますけど、教材用に必要なんで、しょうがないのよー。連句については「あらあら江戸文学史」の中の「俳諧のルール」を見て下さい。)
歌仙「紅葉」・解説つき
1 夕闇にずしりと沈む紅葉かな 耀子
- (一句の意味と季節)紅葉で秋。紅葉の濃い赤が夕方の薄闇の中で黒ずんで見える様子である。
- (前句と合せた時の意味)
2 勤労感謝の日の一人旅 躍子
- 勤労感謝の日で秋。秋の連休に気楽な一人旅をしている。車を飛ばしているのかもしれない。
- 一人旅の旅人が、夕暮れの中で紅葉を見ている。やや淋しい気持ちもある。
3 台風は西の大地に行ったとか 濯子
- 台風で秋。台風の進路が中国の方にそれたので少し安心している。
- 一人旅で金もないのに、台風でダイヤが乱れて予定が狂いそうでひやひやしていたが、大したこともなさそうで、ほっとしている。
4 らくだの群が休むオアシス 耀子
- 雑。砂漠のオアシスで隊商が休憩している。たくさんいたらくだも皆そばで座っている。
- 台風が去るまでオアシスで砂嵐をさけていたのである。
5 月さえて王子はひとり眠れずに 躍子
- 月の定座。月で秋。美しい月光に王子が目がさえてなかなか寝つけずにいる。
- 童謡「月の沙漠」の俤。王女と旅をしてきた砂漠のオアシスで王子がひとり起きて月を見ている。
6 栗の木の実の落ちる音聞く 濯子
- 栗で秋。いがごと枝から落ちるので、どさっとかなり大きい音がする。
- 王宮の奥庭の栗の木から実が落ちる音がうるさくて、王子はなかなか眠れずにいる。何か悩み事があるのかもしれない。(ここまで初表6句)
1 山深くあけびのつるを編みながら 耀子
- あけびで秋。山奥で暮らしている人が、あけびのつるを編んでかごを作っている。
- 山奥で栗の実が落ちる音を聞きながら、静かにかごを編んで暮らしている人がいる。
2 地域おこしにたのもしい主婦 躍子
- 雑。主婦のパワーは地域の活性化には欠かせない。
- 町おこしのための産業として、この山村では主婦たちがかごを編んで、「道の駅」などで売るのであろう。
3 ケータイをスマートフォンに持ちかえて 濯子
- 雑。携帯はもう古いとスマートフォンを主に使っている。
- 町おこしをになう主婦たちは最新の機器も使いこなしている。
4 シェイクスピアも端末で読む 耀子
- 雑。最近の電子書籍では世界の古典もパソコンで読めるのである。
- 電子書籍専門のスマートフォンもあって、これらで読書をするのも次第に普通になりつつある。
5 電気とて無尽蔵ではあるまいに 躍子
- 雑。電気がなくてはならない現代の文明にふと不安を抱くことがある。
- 電子書籍は電気がなくなったらどうなるのだろうかと心配である。
6 事故発生のあとはまっくら 濯子
- 雑。大事故が起こったあとはもう先がどうなるかもわからない。
- 電気がなくなったらまず停電で、実際にも真っ暗になるだろう。
7 気がつけば病院にいた誕生日 耀子
- 雑。誕生日に目をさますとどこかの病院のベッドの上にいた。もしかしたら生れてきた新生児の述懐かもしれない。
- 事故が起こったあと意識がなくなって、誕生日は病院のベッドで迎えることになった。
8 年の暮れにはつい飲みすぎる 躍子
- 年の暮れで冬。年末は忘年会シーズンで、ついお酒を飲み過ぎてしまう。
- 誕生日パーティーで飲み過ぎて気分が悪くなり、病院に運ばれるはめになってしまった。
9 どこまでも花咲く里を夢にみて 濯子
- 花の定座は11句目だが、引き上げて前に出すのはかまわないことになっている。花で春。地平線まで見渡すかぎり桜が咲いている風景を空想している。
- 酔っぱらった時に見た夢の中では桜の花が満開だった。
10 すみれたんぽぽ小川のほとり 躍子
- すみれとたんぽぽで春。小川のそばにはすみれやたんぽぽが咲きほこっている。
- 桜の咲く夢の風景の中にはすみれやたんぽぽなども咲いていて美しかった。
11 水ぬるみおたまじゃくしも浮かれ出し 耀子
- 水ぬるみで春。川の水もあたたかくなって、おたまじゃくしが元気よく泳いでいる。
- すみれやたんぽぽが岸に咲く小川で、おたまじゃくしが元気に泳いでいる。
12 新人歌手に声かけるファン 濯子
- 雑。デビューしたばかりの歌手に、もうファンがついて、さかんに声をかけられている。
- おたまじゃくしが浮かれるように元気いっぱいの新人歌手たちの元気な様子に、つい声をかけてしまうファンたちもいる。(ここまで初裏12句)
1 雪の中一機も飛ばぬ飛行場 耀子
- 雪で冬。天候が悪くて飛行機が発着しない。
- 足止めされた客の中に新人歌手がまぎれこんでいた。まだあまり有名でないのでガードも厳しくなくて、ファンは気軽に話しかけられた。
2 爆撃もなくただ年が明け 躍子
- 年が明けで冬(おっと、春かもしれない)。戦争中で、たまたま爆撃はなく、静かに正月が来た。防空壕で新年を迎える覚悟をしていた市民は、ほっとしたような、拍子抜けしたような、中途半端な気分でいる。
- 雪のため、爆撃機が飛べなかった。戦闘機のパイロットたちは手持無沙汰だが、安堵の気持ちもある。市民の心境から、パイロットの側の気持ちに変わっている。
3 鏡餅ひっそり飾る母と子が 濯子
- 鏡餅で冬(春かな?)。母子家庭で、つつましく正月の鏡餅を飾って祝っている。貧しい中にも幸せな気分がある。
- 戦時下の正月。母と子どもは戦争に行った父を待っているのかもしれない。
※正月は今の季節だと冬ですが、旧暦では1,2,3月が春。このへんは歳時記で確認して下さい。春だともう一句春にしなくてはいけないのですが、困ったな。
4 肩を寄せ合うアパートの窓(シクラメン咲くアパートの窓) 耀子
- 雑。(シクラメンで春。)二人が仲よくよりそって、アパートの窓から外を見ている。(シクラメンの鉢がアパートの窓に飾ってある。前の二句を春にするなら、こうしておきます。)
- 母と子の住む小さいアパートの窓には二人の仲のよいシルエットが見えている。(母と子の住む小さいアパートの窓には、シクラメンの鉢が見えている。)
5 いつからか君とこういう仲になり 濯子
- 雑。男女(同性でもいいが)愛し合って恋愛関係になっている。いつからそうなったかももう思い出せない。
- 愛し合う二人が住むのは小さいアパートの部屋である。(愛する二人の住む部屋の窓にはシクラメンの鉢が置いてある。どちらかが買ってきたのかもしれないし、友人や家族からの結婚祝いかもしれない。)
6 金魚すくいに一喜一憂 躍子
- 金魚すくいで夏。なかなかうまくすくえなくて苦労している様子。
- 恋人同士が声をあげてはしゃぎながら、縁日の金魚すくいに挑戦している。
7 夕立にあわてふためく屋台客 濯子
- 夕立で夏。突然の雨に屋台にいた客が騒いで避難している。
- 夏祭りで突然の雨。金魚すくいも屋台も忘れて皆が逃げまどう。
8 ビール片手に行ったり来たり 耀子
- ビールで夏。ジョッキを片手に持ったまま、座らないでうろうろしている。
- 屋台客は夕立の中でも飲んでいたビールだけは手放さないのである。
9 九回の表に点が入るとは 耀子
- 雑。野球の試合で思いがけず九回の表に点が入って、勝敗の行方はどうなるかわからなくなった。
- テレビで野球を見ていて、そろそろ風呂に入ろうと思っていたら、まだまだ試合結果がわからなくなったので、飲みかけのビールを持ったまま、部屋の中を行ったり来たりするのである。
10 秋空高く白球が舞う 濯子
- 秋空で秋。秋の晴れ渡った空に白いボールが飛んで行く。
- 九回表の得点をたたき出したボールは、青空に吸い込まれて行った。
11 練習の帰りの道は月明かり 躍子
- 月明かりで秋。ここは月の定座。練習をして遅くなった日、帰り道ではもう月が出ている。
- 白球を追って一日練習をした日の帰り道の風景である。野球部でもテニス部でもバドミントン部でもいい。
12 虫の声さえピアノのようで 耀子
- 虫の声で秋。鈴虫や松虫の澄んだ声が、まるでピアノの音のようである。
- 音楽の練習をして帰る道では、まだ耳にピアノの音が残っているようだ。(ここまで名残表12句)
1 歌おうか歌うまいかと迷う日は 躍子
- 雑。何かの催しで歌うことになったが、どうしようかとまだ思案中。
- 迷っていると、窓の外の虫の声までピアノのように聞こえて、ますますせっぱつまって行く。
2 重苦しくも式は始まる 耀子
- 雑。おごそかに重々しく、式典の開始が告げられる様子。
- 国歌斉唱の強制には反発するが、処分も怖いので迷っている人々がいて、卒業式は暗い雰囲気で始まった。
3 被害者と加害者和解すまぬまま 濯子
- 雑。事件または事故の保障問題などがまだ解決していない状況である。
- 葬式か慰霊祭か、まだ諸問題が解決しないままに開かれたので、どことなく緊張した空気がある。
※三句つづいてちょっと深刻だが、種類のちがう深刻さなのでいいことにする。しかし、あまり似た空気が続くと本当はよくない。
4 蛙がはねる田んぼ道ゆく 濯子
- 蛙で春。水田に蛙がぽちゃぽちゃ飛び込む音のするあぜ道を歩いて行くと、春の息吹が感じられる。
- 土地問題か公害か、示談交渉はまだ終わっていないが、それはそれとして、田んぼを見廻っていると、少し心がなごむ。
5 山裾は花の衣に埋まって 耀子
- 花で春。ここは花の定座。山のふもとはもう桜が満開である。
- 田んぼ道を歩いていて、ふと目を上げると、向こうの山は桜の花にふもとを埋めつくされていた。
6 ゆっくりすする七草の粥 濯子
- 七草で春。七草粥をじっくり味わってすすっている情景。
- 花見に来た観光客が茶店で注文した粥を、花をながめながらのんびりとすすっているのである。(ここまで名残裏6句)
※最後の句(挙句)は、明るくハッピーな感じにするのがお約束です。
○初表6句、初裏12句、名残表12句、名残裏6句、計36句。
○月花の定座は、
初表第5句・月、
初裏第11句・花、
名残表11句・月、
名残裏5句・花
を必ず入れる。早く出すのはいいが、遅く出すのはいけない。
○春と秋の句は3~5句続いてよい。
夏と冬の句は1~3句続いてよい。
○最初の初表は穏やかに詠むのが基本。初裏に入ってからは大胆に何でも詠んでいい。
※あまり上記の規則は気にしないで、とにかく、一句ごとに変化していくことだけを守ってくれればそれでよい。
※一人で作る時は、各句の下に名前はいらない。何人かで作る時は、例にならって、各句の下に名前を書いておく。
その後、パソコンの中に、授業用に急いで作った連句が、またいくつか見つかりました。
とりあえず、ここにおいておきますね。
念を押しておくけど、下手ですから(笑)。
〔歌仙「雪空」の巻〕
雪空やトナカイの鈴ちりちりと
ネオンサインが笑う街角
上げ潮か水かさが増し波ゆれて
小舟が岸に軽くぶつかる
月光に客は一人と見定めた
蔦の窓辺のカーテンを引く
秋日和まだ日暮れまでかなりある
お茶のお代わりいかがでしょうか
サービスがよすぎてうざい喫茶店
書ける手紙も書けそうにない
花吹雪あたり一面巻きこんで
山も畑もかすむふるさと
足先でたんぽぽの花ひょいと突く
猫もふざける犬も喜ぶ
子どもらが一気に増える夏の家
古い時計がのんびりと鳴る
教会にたてこもってるテロリスト
交渉人はうら若い女子
それぞれの思いを新茶と飲みこんで
いちごのついたケーキをつまむ
波が寄せ灯台ともる窓の外
難破船なら獲物もあろう
農民の群れは手に手に鎌を持ち
今年は豊作かかしも笑う
カラスらが柿をかじっているわが家
もう帰らない嫁に行った子
祖母はまだ写真を見ては涙ぐみ
遺骨だけでも戻ってほしい
細い月ビルの谷間に今のぼる
イミテーションの紅葉が光る
しずしずと秋の祭りの神輿行く
見送る虫の高い声々
思い出はあなたとここで見た蛍
今は花びら散り敷いた土手
親子連れ入学式にいそいそと
小さい靴が若草を踏む
〔歌仙「さみだれの巻」〕
(初オ)さみだれや遠く聞こえる鳥の声(発句)
田の面の水に映る鉄塔(脇)
いつからかここも過疎地じゃなくなって(第三)
月の光もネオンにかすむ(以下、平句)
時計台いちょう並木のその先に(月の定座)
まっ赤に柿が熟れている家
(初ウ)ミシンふみ何を縫うやら若い母
子の持ち物にネームを入れる
落とし物昨日も今日もたてつづけ
認知症かと気が気ではない
雪だるま前からそこにいたっけか
けげんな顔の冬の満月
国境を越えて一気に他の国へ
歌舞伎は今日も満員御礼(月の出所)
花吹雪舞い散る中で大あばれ
春の新酒もひと役かって
四月にはあっという間に友が増え(花の定座)
自転車飛ばす海沿いの道
(名オ)トレーラーよろりよろりとよろめいて
過積載かな見ていて恐い
友人はどうも何だか大ざっぱ
プレゼントまでいつも適当
商店街呼びこむ声も騒がしく
魚は新鮮今朝のとれたて
サーフィンの後は浜辺でバーベキュー
そろそろ起こる殺人事件
刑事たち枯葉をわけて調べもの
冷たく光る月光の下
白菊も黄菊も同じ色に見え(月の定座)
涙でかすむ目で送る人
(名ウ)港では今日も大きな船が出る
積み上げられた甲板の樽
女でも力仕事はお手のもの
入学式でけんかに勝った
花の中母にあきれて笑われて(花の定座)
二人で帰るすみれ咲く道(揚句、挙句)
〔歌仙「稲穂」の巻〕
選挙カー過ぎてざわめく稲穂かな(秋)
葡萄畑へ続く坂道(秋)
秋空にワインの色も澄みわたり(秋)
落葉片手に長電話する(秋)
月光を浴びてテラスにたたずんで(秋) 月の定座
夜目にも白く散る波しぶき(雑) 」ここまで初折表6句
船長はまかせておけとたのもしく(雑)
見知らぬ星に宇宙船着く(雑)
エイリアンどこかかわいいその手足(雑)
幼稚園児のパワフルなこと(雑)
赤黄白一度に開くチューリップ(春)
おぼろ月夜の小川のほとり(春)
そよそよと眠気をさそう風吹いて(春)
うさぎの穴にさかさまに落ち(雑)
スペードの女王も猫も微笑んで(雑)
悪い予感はよくあたるもの(雑)
突然の雨に一夜で花は散り(春) 花の定座
ひばりの声もやや老いてゆく(春) 」ここまで初折裏12句
麦畑ヘビとモグラがはちあわせ(春)
どちらもびっくりただ逃げてゆく(雑)
意外にも良い結末になる映画(雑)
クリスマスにはふさわしいかも(冬)
金色のリボンをかけたプレゼント(雑)
あけて見るまで中身が怖い(雑)
外交はいつも予測がつかぬもの(雑)
避暑地で悩む各国首脳(夏)
砂漠には今日も嵐が吹き荒れて(夏)
古い遺跡に夕陽が沈む(雑)
月がまたよみがえらせる紀元前(秋) 月の定座
霧のかなたに笑う声々(秋) 」ここまで名残の折表6句
もう今はほとんど死んだ同窓生(雑)
祖母といっしょにめくるアルバム(雑)
すみれ草ひとつふたつを押し花に(春)
のどかな午後の植物採集(春)
ゆらゆらと淡く広がる花の中(春) 花の定座
おたまじゃくしが次々育つ(春) 」ここまで名残の折裏6句
〔歌仙「冬空の巻」〕
冬空や友の飛行機目でさがす 耀子
(一句)発句。冬空で冬。冬の空を見上げて友だちの乗った飛行機をさがしている。または自分も友もパイロットで、遭難した友機の捜索中でもいい。
折から雪もちらりちらちら 紋子
(一句)脇。雪で冬。ちょうどちらちらと雪がふりはじめた。
(前句と)友人の飛行機を探していたら雪がふりはじめた。
温かい紅茶をいれて猫を抱き 克司
第三。雑。紅茶を入れて猫を抱いてくつろいでいる。
雪がふってきたので、紅茶を飲んでゆったりしている。
月の光で外は明るい 由紀子
月で秋。月光で戸外もよく見える。
紅茶を飲む明るい月の夜である。
うす紅の菊のつぼみも開き出し 伽羅
菊で秋。薄紅色の菊がつぼみを開き始めた。「月の定座」だが、月はもう引き上げて前に出ている。
外が月光で明るいので、庭に咲く菊の花もよく見える。
隣家の人になすびをもらう 澪子
なすびで秋。隣の人からなすびをもらった。
菊の花が咲くころに隣家の人がなすびをくれた。」(初オ)
川隔て恋する二人いる屋敷 克
雑。恋で恋。川の両岸の屋敷に恋人同士が住んでいる。
屋敷の隣の人が、なすびを持って来てくれた。または、なすびをくれた隣人が聞かせてくれた噂話でもいい。
不安がつのる親の朝夕 由
雑。親は何か不安なことがあって、それがだんだん強まっている。
向こう岸の屋敷に自分の子どもの恋人がいるのでいろいろ気になる。歌舞伎「妹背山女庭訓」の俤。
吉原へ一人とぼとぼ行く老婆 伽
雑。江戸の遊郭吉原に向かって老女が歩いて行く。
経済的な心配があって老人だが吉原で下働きなどしている。
やんちゃ息子のけんかが心配 紋
雑。子どもがけんかをしないか心配だ。
吉原に遊びに行った息子が喧嘩をしていないかと気になる。歌舞伎「助六」の俤。
まっすぐに迎えの自転車走らせる 耀
雑。誰かを迎えに行くために自転車を走らせている。
保育所の子どもが皆と仲よくしているか気にしながら迎えに行く。
花吹雪舞う長い坂道 紋
花で春。坂道に桜の花びらが降りそそいでいる。
花吹雪の坂道を自転車で走っている。
バス停は新入生で混雑し 克
新入生で春。バス停に新入生がいっぱいあふれている。
花吹雪の舞う坂道のバス停の情景である。
あなたは胸にバラのブローチ 由
バラで春。胸で恋? あなたは胸にバラのブローチをつけている。
バス停は混雑するので目印にブローチをつけることにした。
目印がいる初めての待ち合わせ 紋
雑。待ち合わせで恋? 初めて会う人なので、何か目印が必要である。
初めて会う目印に相手にブローチをつけてもらった。
成果はいかにこの商談の 耀
雑。商取引の結果がどうなるかはまだわからない。
初めての相手と交渉するが、どうなるか予想はつかない。大きな取引を初めてまかされたサラリーマンが緊張しながら勇み立っている様子。
海越えて大統領が武器を売る 伽
雑。大統領が武器を海外輸出している。「花の定座」だが、花はもう引き上げて前に出ている。
大統領は相手国に武器を売りこみたいが、まだ交渉はまとまっていない。日米貿易のニュースでもいい。
使わないならそれが一番 克
雑。使わないならそれに越したことはない。
武器を輸入してもそれを使う事態がなければ何よりである。」(初ウ)
意地はってつい手をつける人の金 伽
雑。見栄をはったために、つい公金を使いこんでしまった。
使わないですめばいいが、成り行きで他人の金を使うこともある。
ぶらりひょうたん風にゆれる夜 紋
ひょうたんが夜風にゆれている。
人の金を使いこんだ結果、自殺した人がひょうたんのように風にゆれている。浄瑠璃「冥途の飛脚」「心中天網島」の俤。
木も草も種を残して枯れてゆく 耀
枯れるで冬。植物は枯れたあとに種を残す。
枯れて茶色になってつるの先でゆれているひょうたんからは、他の植物同様、種がとれるだろう。
秋の日を浴び旅をする武士 由
秋の日で秋。武士が陽射しを浴びて歩いている。
木や草も枯れた田舎道を武士が旅している。
山猫の声が紅葉をふるわせる 紋
紅葉で秋。山猫の鳴き声が秋の山にひびきわたる。
山道を旅する武士の耳に山猫の声が聞こえる。「南総里見八犬伝」の犬飼現八の俤。
妻の涙で長い夜になり 由
長い夜で秋。妻が泣くのをなぐさめていたら、夜がふけてしまった。
山猫に家族を殺された女性が夜通し嘆いている。
年の暮れやりくり苦しい裏長屋 耀
年の暮れで冬。年末のやりくりで貧しい人たちは苦労している。
生活苦で年も越せない長屋で、妻が泣いている。西鶴の「世間胸算用」の俤。
鏡餅だけきちんと飾る 紋
鏡餅で春。正月に向けてまず餅だけは飾ろうとしている。
やりくりは苦しいが、鏡餅はさすがに欠かせない。
来年は湖底に沈む豆畑 由
豆で春。ダムの建設で、村の豆畑もやがてなくなる
この村での最後の正月をきちんと過ごし、最後の豆を収穫して節分にまこうと考えている。
氷がわれる春の訪れ 由
春の訪れで春。凍っていた川や海の氷も割れはじめた。
湖の氷も割れて、村の消える日も近づいている。「西鶴諸国咄」の中の「行末の宝舟」の俤。
おぼろ月北極圏で夢に見る 澪
おぼろ月で春。北極にいると日本のおぼろな月が恋しくなる。月の定座。
北極の氷が割れて、春が来た。日本の春の夜を思い出してしまう。
今夜は犬も静かに眠る 澪
雑。犬も熟睡する平和な夜である。
北極の探検隊のそり犬たちの様子。映画「南極物語」の俤。」(名オ)
ずっしりと重い扉が閉ざされて 克
雑。セキュリティが厳重な建物である。
怪しい者も近づかず番犬も安心している。
裸踊りで夜もふけて行く 紋
雑。夜通し裸踊りで大騒ぎしている。
重い扉の奥でひそかに乱痴気騒ぎが行われている。若者のパーティーか、金持ちの老人の秘密会合か。「古事記」の岩戸の俤もある。
にぎやかな声につばめも目をさまし 澪
つばめで春。人声につばめも目がさめてしまう。
夜更けの大騒ぎで、天井の巣のつばめも迷惑している。
花もいっしょにラジオ体操 耀
花で春。朝のラジオからおなじみの音楽が聞こえて、皆が体操を始めている。桜の枝も、それに合わせるように朝の風にゆれている。
朝のラジオや人声で、軒のつばめも起き出してきた。
ままごとを黙って見てるおひなさま 由
おひなさまで春。子どもたちのままごとを、ひな壇の雛が見守っている。
春休みの子どもたちは、ラジオ体操やままごとで忙しい。花の定座だが、一つ前にもう花は出ている。
老人ひとり北へ旅立つ 紋
雑。老人が一人で旅に出ようとしている。
年寄りのいなくなった家の情景。芭蕉「おくのほそ道」の俤。」(名ウ)
耀子 六句 紋子 九句 克司 五句
由紀 八句 伽羅 五句 澪子 三句