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傘はり浪人。

◇片づけ仕事をしていて、古いうちわが山ほど出てきた。捨てようかと思ったんだけど、つい、これも処分しかけたノリと和紙(花束とか包んでもらったのを、ついとってたやつ)で、もういいかげんに雑に荒っぽく貼り直して再生したら面白くて、テレビを見ながら、つい何本も作ってしまった。私の仕事だから、ろくな出来ではないが、もっと手先の器用な人なら、きっときれいにしあげるんだろう。

余った雑紙や新聞紙の上にうちわをおいて、水ノリをすごく適当に指で広げる。
その上に、これまた適当にきれいな紙をべたっとおいて、手と指でのばす。薄い紙だと破れるから、しわくちゃのままにしておく。
下の汚れた紙を捨てて交換し、うちわをひっくり返して、またノリをいいかげんにつけ、和紙をいいかげんにのせて広げる。
そのまましばらく放置して、乾いたら、はさみで余った周囲を切り取る。
これでおしまい。再生うちわのできあがり。

乾くまで、びんや何かにさして、あたりに広げておくと、長屋の浪人が傘はりをしているような、うらぶれた気分になるのが、なかなか乙である。
しかし、公用林でキノコやタケノコをとっても共謀罪に問われるというからには、このうちわ作りだって、テロの財源にするつもりだろうと取り締まりの対象になるかもしれない。あー、いやその前に、私はこれに「むなかた九条の会」とか「テロより恐い共謀罪」とか、「辺野古の基地はいらない」とかいう手書きや既製品のいろんなステッカーはりまくって、デモのときに皆に配ろうと思っているから、もうその時点で立派な共謀罪だわな、多分。

◇ちなみに「キノコは共謀罪」の件は当然ながらいろいろ話題になっていて、首相夫人のゆかりの森永製菓がライバルにしてる明治製菓のキノコの山とタケノコの里をねらいうちした答弁じゃないかという話(ジョークだそうです)まで出ているのには、もう何か頭がくらくらする。ブラックユーモア満載の悪夢の中にいる思いだ。ちなみに「公用林は入ったらいかんからあたりまえ」とか弁護しておられる方もおいでのようですが、公用林って相当広く、うっかり入ってしまうことはよくあるし、仮にそれが不法侵入を問われるとしても、テロ準備罪扱いされるのとでは話が全然ちがうでしょうよ。

https://twitter.com/sangituyama

https://twitter.com/I_hate_camp

よりにもよって、またしても地方創生大臣が「学芸員はガンだ」と発言したのもほんとに、いつものことながら、世界の皆が一人残らずそれ言っても担当のあんただけは言っていけないだろうという要職にある人が、そういう発言をするという点では、安倍晋三の任命センスは、いくら人がいない中でも最悪としかいいようがない。

◇昨日からまたのどが痛くなり、風邪がぶり返したようで、まったくゆううつなのだが、私が最近疲れているのは、こういうこともふくめて、バカの無責任な発言の大群には、まともな知性や専門家では絶対に対抗できないし、もうしたくもない(これはまちがっているだろうが)という徒労感だ。
少し前に毎日新聞のコラムで、藻谷浩介という人が、中国脅威論でまったく無責任な偽ニュースが大手をふってまかりとおる現状を憂い、何とかしようと呼びかけていた。

https://mainichi.jp/articles/20170416/ddm/002/070/049000c

たとえば私は今、無名に近いかもしれない江戸時代の国学者のことを調べていて、大昔にその人について書かれた、ぺらっと薄いエッセイが載ってる雑誌を、内容は他の論文に引用してあるから、もう元のは見なくていいかなあと思いつつ、やっと全国で一つだけ部分的に残っているかもしれないのが見つかった、栃木図書館にお尋ねしたら、目録にはなかった私の目当ての昭和21年の7月号もあることがわかり、でも係の人が、その記事があるのは8月号ですよと指摘して下さり、念のために7、8月号をいっしょにとりよせて見たら、やっぱり8月号だった。つまり、この記事を紹介してくれていた唯一の昔の論文も、そこはまちがえていたことになる。
薄っぺらで各号が数葉しかない雑誌だから、合冊してあった8月号も7月号と思われたのだろう。何とも些少で細かいまちがいだが、これで真実に近い訂正がひとつできたことになる。

担当の図書館の方が学芸員だったかどうかは知るよしもないが、そうであろうとなかろうと、こういう方々の手によって、壮大で膨大な学問の石垣の間の充填剤のような米粒もどきの真実は支えられ、守られている。そんなものなどどっちでもいい何の価値があるとっとと破棄してかまわないと思う感覚は、かつての中国の文化大革命、カンボジアのポルポト政権と同様で、ろくな現在も未来も作らない。
そういう真実を積み上げ、責任ある発言をしようとする精神が、不勉強で怠惰でいいかげんで、そんな自分の無知さえ気づかない人々の手によって駆逐され蹂躙されつつある。私自身、こんな細かい作業と確認をしながら、もうこんな良心的な手仕事で、バカの壁どころか、バカの天井が崩落してくるのをとめられるわけがないと、無力感に襲われつづけている。ひょっとしたら、これが体調不良の根本的な原因かもしれない。

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カツジ猫