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人間関係

終活レポート、第二弾です。

老後の人間関係については、これと言った予定が特にない。一口に言うと、ひとりでに、しぼませて、枯れさせて行こうと思っている。つかんでいる力がなくなったら、どんどん手を放して行く。
 いくつかの塊にまとめてみる。

まず家族。遠方に住む親族以外は、直接の家族はもう誰もいない。私は精神的にも肉体的にも家族や先祖には大変いい基礎を作ってもらったと感じていて、遺伝や血筋も含めてとても感謝している。誰を思い出しても、笑いしか浮かばない。そんな日々や場所を失ったことへの悲しみも淋しさもないぐらい、すべての思い出が力強くて私の中に残っている。
 私の一族は知る限り、身内をあとまわしにして、周囲や他者を大切にする傾向があった。そのせいもあって、一族の団結や絆はむしろ薄く、親しく信頼している数人の従姉弟以外は、顔も知らない若い人も多い。それでも、同じ血が流れるその人たちの中には、多分私にとても近い感覚の人もいて、今いなくてもいずれ生まれるかもしれなくて、私と似たことを感じたり考えたりするだろうという予測は、かなり強くある。
 一応、その人たちへ遺産のすべてを譲るという遺言状は書いてある。と言っても大したものは残せないし、むしろ今私が住んでいる遠隔地の土地と家などは、彼らが始末に困るだろうと気の毒だ。葬式その他の手間をかけさせるのも気が重い。できたら縁を切っておこうかと、かなり真剣に考えるのだが、そうするとわずかな遺産が渡せなくなる。どうしよう。これは今後の課題である。
 多分、私が知らない若い人たちの中で、一番優しくて責任感のある人が、一番苦労や手間を押しつけられるだろうと、それもかなり予想できる。そういうのが、世の常ですから。いやというほど見て来たから。それは何とか避けたいのだが、まだ方法はわからない。

次に「むなかた九条の会」をはじめとした、平和と民主主義を守るために行動してきた仲間たち。でも、もう同世代の人たちは私と前後して死ぬだろうし、それ以外の人たちについては期待も信頼もするけれど、できる協力はわずかになるだろうし、実際の交流は少なくなるだろう。それでいいし、それでないと困る。私のことなどは忘れて、前に進んでもらいたい。

次に、猫関係でお世話になっている方々。多分最後になる飼い猫が先日死んだので、今後の関係は薄らぐだろうが、私の生活を支えてくれた点で深く感謝しているし、その点ではずっと私にとって、どこか特別な方々だろう。猫を超えた私自身の生活にこれ以上関わっていただくことは、申し訳ないし避けたいが、できたらやはり頼りにしたい気がしている。迷惑にならない範囲で何でも事情は話せるし、相談できる方々だ。

次に、ご近所の方々。特に個人的なつきあいはないし、知らないことも多いのだが、身近なことでは相談も信頼もできる。今後おたがいが歳を重ねるにつれて事情も変化して行くだろうが、大切にしておきたい。

次に、仕事関係の方々。特にパソコン担当の方は私の命綱だ。あんまり欠かせない人だから、いつ消えてもいいように覚悟はしているつもりだが、それだけ重要な存在でもある。この人がいなくなった段階で、私の今の生活はかなり趣きを変えるだろう。
 それほど深刻ではないにしても、美容師さんとか電気屋さんとか、信頼できる若い人たちがいつも生活の要所を支えてくれていて、安心して生きていられる。それとは基準がまたちがうが、かかりつけのお医者さんを信頼してまかせていられるのも、精神的にたいそうありがたいことである。

あとは旧友や、それに近い存在の人たち。同じ病気を抱える人や、昔の教え子や、さまざまな大切な知り合い。ただ、どういうか、この人たちとは私はそう密接で熱烈な関係は結びたくない。この歳で、それは重苦しすぎる。軽やかに、気まぐれに、避暑地の恋のようにつきあって、いつの間に死んだかさえ知らないようなつきあい方でいたい。

研究者としてのつきあいもそうで、恩師や先輩後輩や教え子など、皆大好きで大切でも、必要なときには何でもするが、いつもは別々の戦いをしていたい。創作者としてはなおそうで、しょせんは孤独な作業だから、仲間も友も必要ではない。
 自分の生活を支える作業とか、自分の研究や創作を支える作業とかは、私的なつきあいとは別の、公式な機関とか、赤の他人とか、そういう存在を利用したい。

私はどうやら、好きなものどうしで集まるよりも、似ていないものの中で距離をおきつつ生きて行くのが好きなのかもしれない。介護や医療や末期の世話は、他人のプロにまかせたいし、さまざまな生活の局面で、それぞれの役割を果たしながら信頼しあってつきあう関係が好きなのだろう。結婚も子育てもしなかったが、たとえしても、その点はあまり変わらなかったのではないだろうか。

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カツジ猫