「忘却バッテリー」の二次創作(1)
仕事の合間の息抜きに、「忘却バッテリー」のアニメだのコミックだのを、しつこく見直している。原作はもちろん、アニメの作画もていねいだ。主人公は記憶喪失で、ずばぬけた名将だった過去と、平凡以下のヘタレのアホになってる現在が、交互にあらわれる高校球児で、この役に限らないが、優れた声優なら絶対やってみたい役だろうな。ギャップ萌えどころじゃない両極端の演じ分けを一つの役でやれるのだから。
それをしっかり多分楽しく演じ分けてる声優もすごいが、作画もまた、まったく同じ外見の主人公が立っているだけでも、名将かアホかすぐにわかるという描きわけがすごすぎる。横顔の表情、たたずまい、同じ顔なのに、まるで雰囲気がちがう。動けば、もうちょっとした手つき(シートノックでボールを手に取る指の動き)から、アホな相手(巻田くん)がマウントとってくる時の目つき(数秒だが髪の下から鋭い目で見上げているのに、次の瞬間、愛想よくあまーい声で応対する)まで、私の比較的大きなテレビの大画面でもとても小さく、やっと見える程度の大きさなのに、しっかり描ききって見せている。
かなり人気も出て来ているので、男子高校生ばかりの作品だし、当然男性同士のカップリングを描くような二次創作がたくさん出て来てふしぎではない。それにもかかわらず、実は私は、この作品でそういう傾向のファンフィクションはほとんど出ないのではないかと何となく思っていた。これは本当にふしぎだが、この作品は、そういう空想をはばむものがどこかにある。各登場人物の心理や動機がしっかりと書き込まれていて、あいまいな妄想をする余地がないからだろうか。
その一方で、主人公の記憶喪失の直接の原因をはじめ、重要な要素のいくつかは、いまだに徹底的に伏せられている。私自身、冒頭のころに、アホな方の主人公が野球の練習が嫌いで対決も競争も嫌いで、もうやめよう、これだから世界で戦争がなくならないんだなどと嘆いているあたりは、ギャグと思って大笑いしていたのだが、口から出まかせのような、ラブ&ピースで生きたいなどという主張もふくめて、それらのぼやきのすべてが、名将時代の苦悩から生まれた、具体的で真剣で、作品の核につながる重要なテーマだったと、ずっと後でわかったときは、絶対に油断できない深い内容の作品なのだと衝撃を受けた。だから、今もまだ、自分が見落としていることや気づいてないことが、いくつもあるだろうと覚悟し用心しているし、これでも軽率な発言はつつしんでいる。
そういうこととも関わるかどうか知らないが、主人公二人の友情もふくめて、主要人物たちの性格や資質は、誰もがとことん健康で、まっすぐで、誇り高く、逃げやゆがみや病的なものが、かけらもない。ちなみにゆがみも病的なものも私は大好きで、それから生まれる人間関係も大好きだから、もちろんそういうのがあっても大満足だが、この作品にはそれがないのだ。誰もがとことん前向きで、人間として安定している。不良になろうがオタクになろうが性格悪かろうが記憶喪失になろうがストレスに押しつぶされようが、努力も自立も決してやめない。強者として上に立つ者としての責任を放棄しないし、弱音を吐かないし、真正面からすべてを受け止めつづけている。この健全さと安定感には、少数派の同性愛的なものが入り込む余地がない。
…と、思っていたのだが(笑)。
コミックもDVDもしばらくは出そうにないので、欲求不満の解消にネット小説をあさっていたら、二次創作やファンフィクションもそこそこあって、中にはかなり徹底的な性愛描写も含めた同性愛ものもちゃんとあった。それでも多分、これだけの人気作品としては少ない方ではないかと思うが、どれもかなりよく出来ていて、私は相当感心し、笑って楽しませてもらった。
えっと、長くなったから、二つにわけます。ごめんなさい。