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「忘却バッテリー」の二次創作(3)

(1)(2)にひきつづき、「忘却バッテリー」の二次創作についての話です。

これは特に刺激的な内容じゃなくて、むしろ笑える作品ですけど、いろんな意味でよくできていて。

主人公の一人で、俊足小技得意の千早くんは、現在の(小手指。こてさし)高校野球部の仲間とは、いろいろあって普通に親しくしてますが、中学の地域の富士見シニアチームでは、一番優秀だったけど、孤独で人を寄せつけず、自分でも友だちはいないと思っていて、それを苦にしてもいませんでした。かまいまくって来たのはがさつで無神経な巻田だけで、ウザかったので、避けまくっていました。

巻田をはじめシニアの仲間が進学した、そこそこの強豪校(氷河高校)と練習試合をしたとき、巻田以外のかつての仲間たちは、ベンチで自軍の他の選手たちに、千早が優秀で皆にあこがれられていたこと、でも孤独が好きでプレイでもそれが表れて、人を信じたりまかせたりしないで個人プレイに徹すること、「自分ではフィジカル(体格)を気にして過食してたけど、本当の問題点は他者を信頼できないことだったかもしれない」ことを語ります。

これを口にするのは、複数の無名の選手たちで、原作の漫画では名前もありません。でも、これは千早についての正確な分析であり、彼への好感もこめてそれを語った無名の選手たちに、ファンサイトでは興味や注目が集まりました。

代表ともいうべき、その無名選手の一人にアニメでは栗田くんという名前がつき、ファンフィクションでは他のチームメイトとともに、千早を好意と憧憬をこめて見守っていたという設定も次第に普通になりました。巻田は恐い物知らずでどんどん千早にかまっていたので、ちょっと別扱いですが(笑)。

やはり主人公の一人の藤堂葵くんが、別の大泉シニアチームで、先輩たちにかわいがられて大事にされてなついていたのと同様、千早くんのこのシニアチームでの人間関係も暖かく読者の心をなごませて、しかも通り一遍の美談ではなく、時にはそれが悲劇を増幅さえさせるという、立体的で重層的な仕組みもしっかり作られているのがみごとです。

で、この栗田くんと千早くんのカップル小説もあるし、藤堂くんと千早くんの話は更にもっと多いし、特に後者はほのかなものからハードなものまで数も相当多いです。
 それについてはまた書きますが、この、さっきリンクで紹介した短編は、練習試合の後しばらくして、たまたま街で会った巻田くんと藤堂くんを介して、栗田くんが藤堂くんと連絡をとり、千早くんが元気でいるかどうか、心配して聞いてくるという話で、大半がラインの会話です。巻田も加えた会話が、よく各自を表現していて、これだけの力を持った作家の人たちが普通に大勢ファンフィクションを楽しんで書いたり読んだりしているという、文化度や層の厚さに驚愕します。

とりわけて卑猥な要素もないし、ぎりぎり普通な友情めいたやりとりと読めないこともなくて、絶妙におかしな関係が描かれている、そのきわどさが、もう最高に上手い。
 千早が知らなかっただけで、シニアの皆は実は千早をあこがれて大好きだっただけではなく、彼の見た目におじさんの変質者のえじきになりかねない美少年的要素があるのを心配して、ひそかにガードしていたという設定も、みょーに納得させられるし、さらに、「あいつは普通の男子高校生だ。アダルトビデオなんかも見るし」と藤堂が話して栗田がショックを受けたことがきっかけで、元富士見シニアのメンバーも藤堂も、それと気づかず、いつの間にか、千早に似た女優のアダルトビデオが好みになってたのが明らかになるという展開も、もう死にそうにおかしい。何にも知らずにかきまわす巻田の存在も絶妙に最高。

巻田がとめる間もなく千早似の女優のアダルトビデオを、藤堂の好みと言ってスマホで千早に送ってしまい、カオスはますます深まりますが、どうやら千早は女優が自分に似ていることには気がつかなかったようで、「あんなのが好きなんですか」と翌日は藤堂をバカにし、「自分はあんなタイプはきらい」と言い(きっとドウゾクケンオだと藤堂は思う)、「もっと素直で単純なタイプがいい」と、こっちも何だか藤堂タイプの女優のビデオが好みになってるみたいなのが、更におかしい。

あり得ないバカさ加減の連続のようで、ちょっとどれもありそうな気がするのが、江戸の黄表紙なみの巧妙さです。

ちなみにつまらん考察をすると、藤堂が「全寮制ギムナジウム」の語を知ってたのに栗田くんは驚いてるけど、もしかしたら、お姉さんか妹に教えてもらっていたのかな? それと千早とタイプが激似の女優のAVを、どうやって見つけたんだと栗田がびびり、「見つけたのはおれじゃない」と藤堂が言ってるのは、アダルトビデオの蒐集マニアの清峰のお兄さんが見つけてくれたのだろうか。などという余計なことも考えています。

まあたとえば、こういう作品もあるということで紹介説明したのですが、一番私が言いたいことは、これから先のことでして。あーでも時間がない。また続きを書きますね。

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カツジ猫