「水の王子」通信(113)
「水の王子 山が」第七回
【サグメの独白】
「サグメさまあ!」
明るい、あまりにも明るい声が背後からひびいて、私は危うく前にのめりそうになった。
ふり向かなくてもわかっている。この声はタカヒメだ。
剣の訓練をしていた女の子たちが、くすくす笑った。その目が私の後ろを見ている。どうせそこには、輝くようなタカヒメの笑顔があるのだろう。
「こんちわ、皆」陽気な声が私の後ろからひびいた。「やってるねー、楽しい?」
「はい!」と女の子たちが声をそろえた。
「えらいなあ、たいがい厳しい訓練なのに!」
私は肩で息をついた。「私の頭越しに話すな」
「あ、失礼しましたー!」と言いながら軽やかに草をふんで、はねるようにタカマガハラの白い服を着た若い娘が私の横にやってきた。
「見て下さい、サグメさま!」彼女は元気に背後を指差した。「いいでしょ、これ!?」
しょうがないから後ろを向く。少しはなれた草の上にタカマガハラの、空を飛ぶ白い船がとまっている。ただ、えらく小さい。二人乗るのがやっとだろう。
「トリフネにたのんで超小型のやつを新しく作ってもらったんです」タカヒメは得意満面でこぶしをふった。「ちょっと操縦がこつがいるんですけどね。小回りがきくし、どこにでもとめられるし、人手はいらないし、もう最高ですよ!」
「便利そうだね」私は認めた。
「今日はちょっとオオクニヌシに用があって来たんです」てきぱきと彼女は言った。「彼、家にいるかしら?」
「あたしが知るわけない。まあ、いるんじゃないの?」
「苗木を持って着たんですよ。タカマガハラの、あっという間に育つやつ。どこに植えたらいいか、あとで相談にのって下さいね」私の返事も聞かないで、彼女はまた船に飛び乗った。「ツクヨミの店にも寄らなくちゃいけないの。タカマガハラの香料を少し持ってきてくれと頼まれちゃってるんです」
船はたちまち舞い上がる。私の後ろで娘たちがくすくすと笑い、ため息をつき、「カッコいい~」と誰かが小さくつぶやいた。