1. TOP
  2. 岬のたき火
  3. ミーハー精神
  4. 「水の王子」通信(12)

「水の王子」通信(12)

今回の人物紹介は、かなり面白いんじゃないかな。「村に」の話の中では活躍する重要人物が多いんですよ。ヒルコとハヤオも一応ここに入れておきます。

ナカツクニ(わりと最近訪れて住みついた人たち)

スクナビコ
小さい木の実のような小舟に乗って、わにざめのひしめく入江を何のことなくわけ入って沖からふらりと村に来た、小さいはげ頭のしわだらけの老人。かつて都で同じ名を名のる若者もいたが、それはにせもので、こちらは本物(と、本人は言う)。いつもにこにこきげんよくて居心地よさげにくつろいでいる。旅をしていろんな村や町に立ちよってはそこにあった問題を解決して人々を救うが、面白半分でいたずら好きなところもあって、人々からは恐がられたり頼りにされたりしているらしい。その学識や知力は底知れず、得体のしれない迫力もある。オオクニヌシ夫婦の家に滞在し、彼ら二人や村人たちの心の支えとなっている。

タカヒコネ
一時期はスサノオに導かれつつ都の王として生きたこともあるが、やがてそれに疲れて都を去り、草原で盗賊として悪の限りをつくしていた若者。財宝がないかと村を訪れたが、長も城壁もない村のふしぎさにとまどっている内に、いつの間にか皆となじみ、住みついてしまった。自分でもわけがわからず困っている模様。タカマガハラの若者たちとは一味ちがう荒々しさと男っぽさ、俗っぽさにあふれているが、どうかすると人がよくて親切で、ある種の気品さえ感じさせることがある。汚れ仕事をひきうけて村のためにつくし、その結果じわじわ身体をむしばまれて行ってもオオクニヌシ一家や友人たちを守ることはやめない。それが彼自身の本質か村の与える影響かは不明。

コノハナサクヤ(サクヤ)
背の高いすらりとした美しい女性。家事や化粧やファッションやインテリア、村作りにいたるまで、すぐれたセンスを発揮して、自分のみならず周囲も美しくして皆に感謝されまくる。いつも幸せそうで、どこか夢みがちで、その明るさはどこか不安定で哀しくもある。自分がこんなに幸せでいられるのは惜しみなく愛せる人がいるからだと公言しつつ、それが誰かは絶対に口を閉ざして、かくし通す。村中が彼女の存在に活気づけられ華やかで幸せな気分になっているが、その愛する相手が誰なのかにも皆が興味しんしんである。

イワナガヒメ
コノハナサクヤの妹。がっちりとたくましい無骨な顔と身体つきで、地味で目だたないが力強い。石への彫刻が得意で、刀や農具をきたえるのも巧みで皆に感謝されている。妹の愛する相手を知っているようだが固く秘密は守り、その愛を支えてやってもいる。アメノサグメとは金属や石の話で盛り上がり、仕事仲間としてうちとけあっている。

トヨタマヒメ
常に黒い衣とかぶり布で顔も身体もすっぽりかくし、白く美しい手足しか見せたことがない。声も聞いた者がいない。しかし、はつらつと元気でせっせと働き、村のあちこちを手入れして掃除し、いつも居心地よく清潔に保って居て、サクヤとともに人々に愛され感謝されている。美しくなよやかな手足は時に少女のよう、時に成熟した娘のよう、時に力強い母親のように見える。アメノワカヒコとは恋人どうしのようだが、ハヤオとも仲がいい。

タマヨリヒメ
ホオリとホデリの両親から預かった大きな船(海には出られないから砂浜に引き上げてある)で、旅人や村人に料理や酒をふるまって、代わりに食物や薬草をうけとって生活している。長い髪を複雑なかたちに結い上げ、肌もあらわな薄衣をまとった、背の高い、声もしぐさも超なまめかしい妖しい美しさを持つ中年女。戦場になった地域から逃げて来たらしく、残酷でおぞましい話をこれでもかというぐらい事細かに語っては人々を恐がらせたり喜ばせたりするのも一種のサービスか。何だかんだで実はけっこう人気者でもある。

キノマタ
オオクニヌシが前の妻ヤガミヒメに生ませた赤ん坊。何十年もの間、泣くだけで育たず、ヤガミヒメが村につれて来たが、オオクニヌシは受けとることを拒否し、その後もずっと彼を近づけない。やがて赤ん坊は大きな力を持つようになり、人々が対応に困って見のがしている内に村をほろぼす力にまで仲間をふやして成長する。迫害され無視された者が団結して、これまで与えられなかったものをかちとろうという、一見ヒルコと共通するような意識を強く持ちながら、どこかちぐはぐで、いびつで、つりあいがとれておらず、ゆがんでいる。

ヒルコ
水の王子と呼ばれている。イザナギとイザナミが最初に生んだ子。育ちそうにないので海に流され捨てられた。その後どこかでどうしてか成長して今は十一歳ぐらいの少年で、それ以上年をとらない。ほっそりして少女のようなはかない顔だち、栗色がかったまっすぐ長い髪、色白で優しげで、いつも白い衣を着ている。大人しく無口だがけっこう激しい一面も持ち、自分が役に立たないと捨てられたことから、この世のあらゆる醜いものや危険だからと切りすてられるものに対して共感し救おうとする。父母が別れて敵味方として戦うようになってからは、どちらの世界にも味方せず対立し、どちらかの世界で安住していた人たちを混乱させ、不幸にすることもあり、どちらの世界からも警戒されたり、利用されそうになる。気まぐれでわがままで扱いにくくて得体がしれないが、素直で無邪気な子どもっぽさもある。

ハヤオ
深い森の中で眠ってばかりの父と泣いてばかりの母といっしょに、けっこう楽しく暮らしていた元気な少年。日に焼けてくるくる巻毛ではっきりした目鼻立ち、いつも毛皮の服を着て弓矢を持って狩りをしていた。ヒルコと同じ十一歳ぐらいでやはり年をとらない。自分の過去にも未来にも広い世界にもあまり興味はなく、目の前の現実に全力でとりくむ。他人や回りに影響をうけやすく、わりとすぐ相手を信じるが、偉大なものや得体のしれないものは少しも恐れず平気で戦う。森でヒルコと会ってから対立しつつも友人になり、ともに森を出て草原や都を旅し、海のかなたの島でいったん見失っていたヒルコとめぐりあって、やがて海べの村に落ち着く。単純で健全で勇敢だが、したたかで頭がよく働き、立ち直りも早い。

 

Twitter Facebook
カツジ猫