「水の王子」通信(74)
スセリは清潔で、まじめで、理知的だ。意志が強い一方で、夢見がちで大胆だ。少女の心を持ちつづけている。夫のオオクニヌシが愛しつつ恐がっているのも無理はない。
彼女はキリスト教の聖女っぽいし、革命家の女性っぽくもある。とても優しいが同時に厳しい。これまたイラストで表現するにはハードルが高い。
挿絵の多くでは彼女を少女の姿のままに描いた。髪は銀色にしたが、口のしわなどは描けなかったし中年女性っぽくできなかった。
この絵では、それを何とか克服して、中年女性で少女の性質を持つ顔を描こうとしたが、やはり成功しなかった。ただ厳しい性格が全面に出てしまう。殉教図の聖女などももちろん見たが、あまり参考にはならなかった。
彼女は私の中にもいて、ひとつの芯にもなっている。私が勇気を持てるのも、寛大になれるのも、勤勉でいられるのも、彼女がいるからだと感じる。
アマテラスには私の母がいくぶん投影されているが、スセリにもそれはある。革命家や宗教家にもしばしば見るように、その強さとおおらかな優しさは、ときどき無神経で残酷に見えることさえある。彼女は去る者や死んだ者に執着しない。後悔はしないし未練も持たない。その一方で理想や思い出は守り抜いて変質させない。それは永遠の少女のように、周囲の人たちを惹きつけるとともに、動揺させもするだろう。