「水の王子」通信(8)
「村に」の電子書籍には、冒頭に登場人物紹介一覧表を出すことにしました。
今せっせと作ってるんですが、その前に、舞台というか場所についても説明しとこうかと。
でもって、これね。この物語、「古事記」をモチーフにはしてるけど、人物その他はあくまでも勝手な創作ですから、そこはご理解を。装丁の担当者は「読んだとき、ナカツクニの村は映画『トロイ』みたいな感じかと思った」と言ってましたが、それも大いにいいんじゃないでしょうか。
タカマガハラ
空の彼方にある美しい国。いつも空気が澄みわたり、涼しい風が吹いている。緑の草のそよぐ中に木造の素朴な家が並び、花さえも少く、家の内外にも家具や飾りはほとんどない。
高い文化を誇り、老若男女を問わず、あらゆる能力はきわめてすぐれている。男女ともに厳しい教育と訓練を受け、戦闘だけでなく芸術や学問などでも、それぞれが第一級の水準にある。支配者はイザナギだが、最近はめったに人前に出ない。長老のタカミムスビ、タカギノカミらが命令を下すことが多い。
住民は一人残らずエリートであり、高い知性と品性と道徳心をかねそなえる。ただし人にもよるが、タカマガハラ以外の者には常に少々上から目線だし、敵と戦う時には手段を選ばない苛烈さも持つ。
ヨモツクニ
海底と地底に広がる暗黒の国。迷路のように広がっていて、その全貌は誰も知らないし、住民たちの正体もわからない。地上で役にたたなかったり害になったりするとみなされて追いやられた者たちがすべて顔もかたちも定かでない、ぬるぬるとしたマガツミという生き物になって、時にさまざまな姿に変身したり、壁や床にとけこんで一体化したりしている。支配者はかつてイザナギの妻だったイザナミ。その片腕となって働くのがイザナギの息子の一人で、もともとはタカマガハラの住人だったツクヨミという美しい若者。変化しつづける膨大なマガツミの群をあやつりながら、彼はタカマガハラと戦い、多くの町や村を不幸と混乱におとしいれて行く。
ナカツクニ
タカマガハラとヨモツクニの間に位置する地上の世界には、さまざまな村や都、草原や森や海がある。ナカツクニはその中の小さな村のひとつ。二つの岬に抱かれた入江を前にして、背後にはさほど高くない山がゆったりとそびえ、入江と山の間には森や畑や人々の家が散らばって広がっている。草原から山のふもとの峠を越える街道は、村の中を流れる大小二本の川とともに、森や畑を横切ってふたたび反対側の岬の根から海沿いに草原へと向かう。昔からの村人も少しはいるが圧倒的に多いのはしばらく滞在してまた去って行く旅人で、村にはしきたりが根づかず、長のような支配者もいない。何となくまとめ役をしているオオクニヌシは、ここは村ではなくてただの道だと公言している。
ネノクニ
「村に」では直接登場はしないが、地上にある大きな都の一つで、かつてはタカマガハラの住人だったスサノオが王となって支配している。緑の木々や草のない石づくりの広場と建物が中心の都で、周囲は住民が築いた堅固な城壁に囲まれ、外敵の侵入を許さない。タカマガハラにもヨモツクニにも支配されない自分たちの都を築くことがスサノオの目標で、人々もそれを支持して一致団結して、城壁の建設や拡張に日夜はげんでいる。住民の心は清らかで健康で、貧しくても誇り高い。スサノオを助けて住民の精神的肉体的健康を守り、病人やけが人の治療にあたっているのが、タキツ、タキリ、サヨリの三姉妹で、彼女らは都の秩序の維持にも大きな役割を果たしているようだ。