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「水の王子」通信(9)

「水の王子」の内容をざざっと紹介、説明しますと。

○「古事記」をモチーフにしていますが、時代考証なんかありませんし、めちゃくちゃ勝手に遊んでいます。別に日本風でなくても、西欧、中東、中華、アジア、アフリカ、宇宙、どんな世界で空想して下さってもかまいません。

○「古事記」や日本神話では名前以外はほぼまったく登場しない、ヒルコとハヤオが主人公。夜の神ツクヨミも大活躍します。

○タカマガハラとヨモツクニは、この地上の世界をはさんで、ファンタジーにつきものの、正義と悪の戦いをやってるように見えますが、必ずしもそうではなく、むしろイザナギとイザナミの元夫婦の対立かもしれません。

○タカマガハラが象徴するのは清らかさ、明るさ、正しさ、まっとうさ、健全さ、ヨモツクニが象徴するのは、混乱、混沌、快楽、狂気、享楽、破壊、暗黒、などなど。

○日本神話でおなじみのアマテラス、オオクニヌシ、アメノウズメ、アメノワカヒコ、コノハナサクヤ、スクナビコなども大いに活躍します。その運命や行動は神話の伝承を時になぞりますが、時にまったく離れます。

○ヒルコとハヤオの主人公二人はどちらも十一歳ぐらいの少年で、二人は年をとりません。他の人物は普通に年をとったりとらなかったり、ばらばらです。

○彼らは略称で呼ばれることも多いので、日本神話になじみのない人のための簡単な一覧表。他にもあったかな? 思い出したら補充します。
 アメノウズメ(ウズメ)、アメノサグメ(サグメ)、アメノワカヒコ(ワカヒコ)、コノハナサクヤ(サクヤ)、スセリヒメ(スセリ)。

○ヒルコとハヤオは第一部「森から」で知りあい、第二部「草原を」でタカマガハラのアマテラスたちと知り合って、よみがえった怪獣ヤマタノオロチを再び葬るために、ヨモツクニと戦いつつ、草原を旅します。その後、第三部「都では」で、スサノオの支配する都に入り、同じ旅人のオオクニヌシやスクナビコ(と名乗る若者)と暮らしますが、結局そこを去って、いったんヒルコも見失ったハヤオは第四部「海の」で、海のかなたのヨモツクニが支配する島でヒルコと再会し、彼とともに島を逃げ出してオオクニヌシがスサノオの娘スセリと夫婦になって住んでいるナカツクニの村に行きます。そこでの暮らしを描いたのが第五部「村に」です。

○「村に」だけを読んでも筋はわかるし、楽しめます。第一部から第四部は、第五部を読んだあとで、参考資料として見るのでもいいかもしれません。

○「村に」の登場人物は第四部までよりもずっと多いですが、次のようにまとめて覚えて下さい。

 オオクニヌシ一家…三人の子どもの内二人シタテルヒメとタケミナカタは村を出て行って、一番めだたなかったコトシロヌシ一人が両親とともに村に残っている。

 タカマガハラから来た者たち…古い世代では「草原を」に登場したウズメとサグメ。新世代ではワカヒコ、ニニギ。彼らは村に住みついている。他にタカマガハラからときどき来るのは、キギス、トリフネ、タケミカヅチ、タカヒコ、タカヒメなど。

 もともとの村の住民…サルタヒコ、ホオリ、ホデリ。

 その他、住みついた旅人…コノハナサクヤ、イワナガヒメ、トヨタマヒメ、タマヨリヒメ、ヌナカワヒメ、タカヒコネ、スクナビコ、キノマタ。住みつかない旅人はキノマタを連れてきたオオクニヌシの先妻ヤガミヒメ。

○大ざっぱなあらすじは以下の通り(ややネタばれあり)。

村の平和な日常と祭り。→ 泣き止まない赤ん坊のキノマタの訪れで村が荒れる。→ 更に村が混乱し、疲弊するのを、スクナビコ(と名乗る老人)とタカヒコネがくいとめる。タカマガハラから訪れて住みついた者たちも、それぞれに自分と愛する者を守る。→ タカマガハラの指導者が倒され、村は大混乱になって、がれきの下に埋まる。→ ヒルコとハヤオたちはイザナギ夫婦の真意を探って過去の真実を知ることで村を救おうとするが、それを怒ったウズメによって倒されそうになる。→ そしてラスト。このあたりは一気に伏線回収満載なので、何を書いてもネタばれになるので、これ以上はご勘弁を。

○ヒルコは大人しくて優しそうですが、警戒心が強く慎重で繊細で鋭いし、烈しくて厳しい面もあります。特に世の中から排除されそうなものに対しては徹底的に味方して守るため、ときどきとんでもないこともします。ハヤオは元気で勇敢で利口ですが、あまり複雑なことは考えず先の心配もせず、目の前の現実と向き合う行動的な性格。権威や脅迫などにはまったく屈しませんが、素直ですから周囲や相手からの影響は受けやすい。あえて言うならヒルコは私の空想の世界、ハヤオは現実を生き抜く力の象徴です。まあ、それだけでもないけれど。

○ファンタジーっぽいわりに重要アイテムは少ないですが、しいて言うなら入江に住みついているわにざめの群と、ウズメが持っている生き物や物事の本質をあばく強力な最終兵器の鏡。

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カツジ猫