「水の王子」通信(82)
ネノクニの都の王スサノオは「村に」では登場しません。けれど、続編「回復期」では、けっこう重要な役回りになるかもしれない。
まだ書いてもいない小説にネタバレもないもんですが(笑)、彼は今ではもう引退して、都の支配はタキツたち三姉妹にゆだねています。そして、質素に孤独にひっそりと暮らしています。
けれども決して不幸そうではありません。タカマガハラにもヨモツクニにも支配されない地上の国を作るのだという彼の決意が、どのくらい達成されたかはわかりません。都は清潔で前向きだったけれど、人々は貧しく、いつも疲れていましたし、異質なものは否応なしに排除されていた。ヨモツクニのツクヨミはもちろん、ヒルコが生きることを許されない世界でした。
スサノオは暖かく力強く、けれど厳しい王でした。そして彼が愛し育てた者たちは、娘のスセリも、タカヒコネも、彼のもとを去りました。彼はそれを恨んでいる様子はありませんし、悲しんでいるようでもありません。彼は自分の信念に従ってできる限りのことをして、都と人々のためにつくしたのです。誇ってはいないけれど、後悔もありません。
「水の王子」の登場人物の年齢は皆あってないようなものですが、少なくともスサノオはオオクニヌシよりずっと年長だと思います。それなりに老けてもいます。けれど彼はどこかオオクニヌシよりも、はるかに若々しく見えるはずです。理想も信念も彼は失っていないし、迷いも悩みもないからです。それほどにまっとうで力強い生き方を彼はして来たし、その中での過ちも誤りも、いつでもひきうけて責任をとる覚悟を持っているからです。
その精神は、かたちをかえても、娘のスセリや、育てたタカヒコネにしっかり受け継がれているのかもしれません。
スサノオは、いろんな事情や理由から、私がついに貫けなかった生き方の象徴です。それでも後悔はしていない、政治や世界や社会に対して私がめざした理想や信念です。何ひとつ得られなくても、すべてを失っても、最後の日まで、必要があれば彼はまだ戦う気持ちを失ってはいないでしょう。
これは描き直した、スセリ。前のよりは少しは彼女らしいかと。服をもうちょっと塗るかもしれません。(あー、でもやっぱりスセリは前のの方がそれらしくもあり、そしてこの絵はむしろイザナミのようにしか見えなくなって、イザナミにすることにします。それだと服もこのくらいぼんやりしてる風がよさそうだし。ただ、そうなると、これに匹敵するすごみのあるイザナギが描けるのか?というのが目下、最大の懸案事項。←12月2日追記)
こちらも描き直したタカヒコネ。まあせめて、このくらいは荒っぽい感じにしておかないと(笑)。