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「水の王子」通信(91)

このヤガミヒメのイラスト、いろいろ不十分なんですが、何となく彼女の雰囲気が出ているので、このままにしました。

日本神話では彼女はいうまでもなく、オオクニヌシを最初に愛した女性です。それも彼女に求婚した大勢の兄弟神の中から、一番下っ端で無視されていた彼を選んだ女性です。そのことは兄たちの嫉妬を招き、オオクニヌシを不幸にしました。細かいいきさつはわからないけど、そのままオオクニヌシは彼女のもとを去ってしまいます。ひきはなされたというべきか。

それでも彼女は他の人と結ばれた気配はない。次に登場するのは、ナカツクニの村でスセリと夫婦になっているオオクニヌシのもとに彼の子ども(まだ赤ん坊)を連れて現れ、妻のスセリに遠慮して、子どもだけ残して帰ってしまうという場面で、その後は多分登場しません。

印象に残る話ですし、よくわからない部分が空想をたくましくもさせます。少なくとも彼女はオオクニヌシを裏切らずあきらめず、生まれた子どもを一人で育て、それをオオクニヌシのもとに届けて、自分はいなくなる。悲しくけなげで、強い女性かもしれません。

彼女が生んで、育てて、成長しなかったオオクニヌシの子どもキノマタは、ある意味、もう一人のヒルコです。それを彼女は村に託し、私の物語では、その子が村を滅ぼします。

育たなかった夢、かなわなかった希望。それを守りつづけ、最善の選択として信頼した人々に託したヤガミヒメ。彼女は悪くなかったと私は思います。どうすればよかったか、何がいけなかったのか、私にはわかりません。

彼女の歩みを決して無駄にはしたくない。無駄になっても、彼女の心と生き方を決して忘れてしまいたくはない。
とりあえずは、あらためて、そう思うのです。

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カツジ猫