「水の王子」通信(94)
個人的にはけっこう気に入っているオオゲツヒメのイラスト。残念ながら彼女は「村に」では登場しません。第二部「草原を」で登場する怪物の一人ですが、これは怪物になる前の本来の姿です。
日本神話では、彼女は食物の女神で、スサノオを歓迎してごちそうを作ったけど、その材料を尻の穴などから出したりしていたので、怒ったスサノオに斬り殺されてしまい、その身体からたくさんの穀物が生えたという伝説があります。
私の物語では、その設定からはすこしずれて、性欲食欲その他あらゆる欲求やら欲望やらの象徴のような感じで描かれています。見るもの触れるものをすべてしゃぶりつくし、むさぼりつくす、とめどない衝動のような。それらのすべてを自分の舌と胃袋でどろどろにして溶かしてしまうような。そういう、際限のない貪欲さは私の一部でもあるし、自分で自分を律せない恐怖でもありましたから。
でも、少し軌道からはずれて、まちがっているにせよ、彼女のそういう習癖は、たしかに何かを生み出し作り出す源泉ではあるのです。彼女のような怪物がうろついていない草原は、きっとつまらないにちがいないと思うのです。
彼女をそのような怪物にしたのは、アメノウズメの鏡です。もしも鏡が砕けたら彼女もまた、もとの姿に戻るはずです。