「水の王子」通信(98)
ナキサワメは第一部「森から」の登場人物で、オオヤマツミといっしょにハヤオを育てていたことになっています。私の物語ではですね。
まったく何の意味も理由もなく、ただはらはらと常に涙を流して泣いていることになっている。
もともとの神話では、イザナミの死後に嘆いたイザナギの涙から生まれた女神とされていて、多分その後はあまり活躍しないし、目立った挿話もありません。
実はねえ…「水の王子」全五巻を通して、たった一人を除いて登場人物が絶対に一度もしていないことは何でしょう?というクイズをときどき読者に出すんですが、誰もちゃんと考えても答えてもくれないから、私けっこうクサってるのね(笑)。
最初からねらってやったのじゃなく、気がついたらそうなってたんだけど、これって相当すごいことじゃないかなって思うんですよ。何だか皆さんわかります?
それはさておき、私はこの泣いてばかりいる女性はわりと好きで、眠ってばかりいるオオヤマツミとともに、昔の日本の家庭って、基本的にこんなもんじゃなかったかとさえ思うんですが。夫はおおかた寝てばかりいて、妻はめそめそ愚痴りながら家事をしている。そんなに不幸でもないって気がしてしょうがない。
ハヤオだって、この家で幸福だったと思いますよ。彼がそれをものたりなく、つまらなく思い出すのは、ヒルコと会ってからなんですよね。
私にとって、この夫婦と家とは、いつもどこか、なつかしくて安らぐ存在です。うちの家族は別にこうではなかったはずですが、それでも森のような樹々にかこまれた故郷の家の中で祖父母と母と暮らしていた幼い日のどこかが、これと重なってくるのです。