水の王子・「川も」3
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ヒルコは「そうだね」と言って、またふとんの中にすべりこんだ。「あのね、キノマタが作ろうとした宮殿は結局しあがらなかったし、見たわけでもないけどさ、何だかこのお屋敷に似てると思わない?」
「見たことないものと比べて、似てるかどうかって言われてもさあ…」
「でも、キノマタが作るとしたら、きっとこういう住まいだって思わない? 立派そうなものをやたらに集めてさ、どっかで見たような階段やら窓やらよせ集めて、つぎ足してさ、好みなんかちっともわからないし、人まねばっかで、空っぽで、ちっとも楽しそうじゃない、人に見せびらかして、いばるためだけに建てた家。人に感心されて、安心するだけのために建てた家」
「あんだけ、ごちそう食べさせてもらって、こんないい部屋に泊めてもらって、よくそういうこと言うよな、おまえ」ハヤオはあきれた。「それに、そう言われればこの家、たしかにキノマタっぽい気もちょっとするけど、何かもうちょっとちがう気もする」
「たとえば、どこが?」
「もうちょい、泥くさいっていうか、人がよさそうっていうか、ぴりぴりしてないっていうか、雑っていうか」
「そっちもたいがい悪口言ってるじゃないか」
「おれはキノマタも、どことなく、とことん嫌いじゃなかったもんな。アホだって気はしてたけど」
「そういうこと言ってたから、あいつがつけ上がったんだよね」
「かもしれないが、もうちょっとはじめから、ちゃんとつきあってやってたら、またちがってたかもしれない」
「とにかく、この家、何となくキノマタっぽいんだよ。ということは、村もきっとどっかキノマタっぽいんだ」
「どうする、明日出て行くか?」ハヤオは言った。「ご主人と奥さんは、子どもたちの遊び相手をしてくれたら、当分いてもいいって言ってたけど」
「その子どもたちを見てからでもいいかな。今夜は友だちの家に行ってて、明日帰ってくるって言ってたよね?」
「ああ。三人いるって言っていた」
「男の子二人と女の子一人だっけ」
「ちがうよ。女の子二人と男の子一人だ」ハヤオは訂正した。「おまえ、どうかすると、ほんとにぼんやりだよなあ」
「だって別にどっちだっていいし」ヒルコは小さいあくびをした。(つづく)