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「2022年度古典文学講義A」最終プレゼン講評

レポートの最終締切は12日の午前0時ですが、6月4日と5日に行ったレポートの最終プレゼンの講評を書いておきます。

このテキストで授業をしたのは去年が初めてでした。受講生は今年とほぼ同数で、どなたもかなりがんばったレポートを提出したので、成績評価も高くなりました。「これは皆さんががんばって下さったからで、毎年こんなことになるかはわかりません。決して、あの授業は単位がとりやすいとか、評価が甘いとかいう噂を流さないで下さい。でないと来年は大幅に不可を出すことになるかもしれません」と、去年の受講生に私はお願いしたものの、その点はやはり心配していました。

しかし結論から言うと、今年度のレポートもまた、充実した内容で、去年のレポートを更に発展させたものや、授業内容と関連させたものなど、高い水準のものとなりました。

ときどき「たかが2単位の授業に、こんな全力投球の力作を出さないでも」と、こっちが心配になるようなレポートが出されることがあります。このホームページでも紹介している「集団内の役割分担」の最後の方に、そのいくつかを紹介していますので、気が向いたらごらん下さい。まねはしなくていいですよ。さすがにここまでの大作を提出されると、こちらも申し訳ない気がするので。

以下、お一人ずつにふれる余裕がないので、全体的にいくつかの点をまとめて講評することをお許し下さい。

「夕焼け」の詩についての授業計画をテーマに選んだ人は多く、アテネ、テヘラン、ボストン、ローマ、ウィーン、パリ、の6名の方でした。教育大で教育関係の授業も多い中、このテーマはやりやすいようで難しいと思います。思いきり自由に独創的でよい、と申し上げた私の要望に応えて、皆さんそれぞれに、型にはまらない独自の視点を作ろうとしておられました。日常生活の中の心情に結びつけようという人、他の詩を併用することで問題点を明確にしようという人、タイトルに注目する人など、それぞれの工夫が見られました。簡単な図式にあてはめたり、手軽な手引書などに頼ったりしないで、それぞれに模索し苦労されているのが伝わって好感が持てました。そして、手堅い調査を行って先行研究を調べたり、初出の詩と異同があるという指摘があったり、私も勉強になりました。

この詩はあらためて読むと、どこかつかまえどころがありません。作者の「僕」が立っているのか座っているのかどこにいるのかをしっかり発問として設定することも、きっかけとして有効かもしれないと考えたりしましたが、私にもまだこれといった名案が浮かびません。そういう点では「なるほど、そうか!」とすべてが解明されるような授業計画はまだありませんでした。しかし、これらを手がかりに、この詩の本質をつかんで授業に活かすことは、今後充分に期待できるし、そのような内容は、どなたのレポートにも充分にありました。

「花咲かじいさん」の考察は、去年はテーマとした人が多かったし力作ぞろいだったので敬遠されたのか、今年はナポリさんお一人でした。去年のレポートが多い分、やりにくかったと思いますが、資料が重なったりすることなく、中国や台湾の類話という新しい分野をとりあげてていねいに紹介してくれました。類話の共通点をどのように見つけて証明するかの手順は案外難しく、やりにくいものですが、よくがんばって分析しておられました。興味ある内容でしたが、この類話を引用した本が明記されていないのが、やや残念です。参考文献はきちんと紹介しておられますが、もしその中の引用で、この類話を読まれたとすると、いわゆる「孫引き」になりますので、本当は少しでも元の文献で確認した方がいいです。そういう本が見つからず、「孫引き」で読むしかなかったら、それでいいから、そのことは記しておかなければなりません。

「さかなよ、さかな」の考察は、去年テーマとした人は一人でしたが、カイロさんは、これを発展させて、多くの類話を発見紹介し、分析して図示し、更に日本の類話にあたるものとして「花咲かじいさん」の分析もあわせて考察されました。資料が増やされ、考察も深まり、去年のレポートを大きく発展させたし、分析や構成も的確で納得させられます。ただ、これは皆さんに共通するのですが、こうやって似た話を探して提示するときは、本来の研究論文では、「どの範囲で調査したか」も示す必要があります。童話や民話の辞書に上がっている作品をすべてチェックしたか、ネットで検索して出て来たものすべてを対象としたかなど。でないと、適当に目に触れ、手に触れたものをとりあげたという印象を与えます。もちろんこのような授業のレポートに、そこまでの手続きは必要ありませんが、基本的には論文で何か例をあげる時は、調査対象とした分母は何かを明示することは必須と心がけて下さい。

「ヒーローについて」をテーマに選んだのは、ロンドン、ダマスカス、エルサレムの3名の方です。授業で取り上げるのが最後に近く、時間も充分とれなかったのですが、それでもあえて、このテーマを選ぶ人の発表には、去年も今年も対象とする作品や人物への思い入れや愛情が感じられるのが魅力です。研究対象への愛情は大きなエネルギーを生む大事な要素です。そして去年はあまり見られなかった、仲間や行動理念など、「ヒーローとしての条件は何か」ということを意識的に追求しようとしていることも評価したいと思いました。これとは別にダマスカスさんの発表は、ヒーローの心理をグラフを用いて理論化、体系化しようとする試みで、いろんな点でまだ不十分ですが独特の発想に意欲を感じさせられました。

「自分がほろびる危険を冒して他者を救った人物」をテーマにしたのは、プラハ、アムステルダム、シカゴ、ベルリンの4名の方です。アムステルダムさんは手堅い考察で作品を紹介され、特に講義と関連させて「助けた人のその後」が描かれていると指摘し、ベルリンさんは、一見そうとは見えにくい設定や構成の小説の中に「情けあるおのこ」の図式を読み取ろうとされているなど、論文を書く上で重要な点が押さえられていました。
今回、去年はまったくなかった、日本古典文学の軍記物を題材に選んだ人がプラハ、シカゴのお二人と一時に登場したのは、嬉しい驚きでした。見つけるのが難しい題材なので、どちらも平治物語の常盤御前の逃避行の場面を選んでおられますが、ともによく整理されて詳しく作品を読み込んでおり、それを作品解説に生かしながら、先行研究も踏まえて考察し結論づけるという、すぐれた内容で、たがいに重なるところもない独自の見解も随所に見えて、聞いていても楽しいものになっていました。私も参考になるところが多かったし、古典文学講義という授業名からしても、今後このような方面のレポートが増えるとよいがと考えています。

今回私は、プレゼンそのものについての評価はしていません。しかし、皆さんそれぞれに、「どのように聞かせるか」について工夫し努力しておられたし、そこにはそれぞれ巧拙の差もありました。しかし、どの人も熱心に努力しておられたのはわかって、好感を持ちました。時間も皆さん正確に守って下さいました。ちょっと時間延長が大幅に過ぎた例外もありましたが、これは司会の私が制止しなかった責任です。

以上、大変大ざっぱですが、発表会の講評です。なお、発表された皆さんはすべて単位は取れていますので、これを読んで訂正補充の追加レポートを出す必要はありません。
以上の講評について疑問や質問のある方は、どうぞメールを下さい。

皆さん方との話し合いの中で、「花咲かじいさん」について私なりの結論を得るなど、成果の大きかった授業でした。去年に引き続き、受講生の皆さんに深く感謝します。
なお、「いたさかランド」には、各種のテキストも公開しており、ブログを初め各コーナーには、授業に関連する資料も多くあります。今後もどうぞ、あちこちのぞいて見て下さい。また、授業その他で何かご相談でもあれば、役にたてるかどうかはわかりませんが、どうぞまたいつでもメールして下さい。

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カツジ猫