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発表資料(2)

(発表資料が届いています。受講生は読んでおいて下さい。)

めだかさん

「江戸時代の人の理屈っぽさ」について

 皆さんは「江戸時代の人は理屈っぽい性格」と聞いてどう思っただろうか。私はこの講義でそれを聞いたとき,なぜ「時代」という一括りで人の性格を判断できるのかと思った。たしかに,落語の文化や江戸時代の文学作品の特徴などからそう言えるのかもしれない。しかし,何か手がかりとなるような根拠がほしいと思い,文献調査を行った。

【引用・参考文献等】

1)宮城音弥「日本人の性格―県民性と歴史的人物」朝日新聞社,1969

概要:統計的な調査をもとに,県民の性格について例を挙げながら考察している。

2)大村政男,浮谷秀一,藤田主一「関東人はどんな性格か(II)―渡邊徹『旧新人国記』刊行60周年を記念して―」,『日本パーソナリティ心理学会発表論文集 17巻』日本パーソナリティ心理学会,2008,pp176-177

概要:郷土性(県民性)の古文書『人国記』と現代の研究をもとに関東人の性格について考察している。

3)山本秀樹「江戸時代大阪本屋仲間行司の固定的性格」,『岡山大学文学部紀要65巻』岡山大学文学部,2016,pp132-120

概要:江戸時代の大阪本屋仲間行司メンバーの構成をもとに,固定的な性格を持った(慎重にならざるを得なかった)理由について考察している。

4)柏崎順子「江戸時代における合理的思考の模索 (平成15年秋季公開講座 近代を思考/志向する言語--ヨーロッパと日本)」,『一橋大学3巻3号』一橋大学大学院法学研究科,2004,pp989-1000

概要:江戸時代の古典研究が主観性と客観性の問題に対してどのように取り組んでいるか,契沖,吉田隻敏,狩谷根斎の3つの場合に分けて考察している。

5)依田新,築島謙三『日本人の性格』,朝倉書店,1970

概要:日本人の性格について,風土,慣習,天皇などをもとに考察している。日本人の表情,芸術・道徳・法律・宗教の意識・行動面の新たな特性を見出したり,国語,話し方,科学的思想から日本人の知性の働きを探ったりしている。

6)水島恵一,石原武,寺中平治,蒲生不二男『日本人の思想と行動』,協同出版,1973

概要:日本文化の基盤,日本人の思想,現代日本人の行動と意識などについて述べられている。

・「日本の宗教においては,異端者あるいは異教徒に対して,宗教上の理由から迫害を加えた例は少ない。キリシタン迫害や日蓮宗不受不施派の弾圧は,支配者の定めた封建的社会秩序をそこなう恐れがあったからであり,宗教一般に対しては寛容の精神が基本にあったといえる。(中略)日本人はその寛容性のために、種々の外来文化をさほど抵抗なしに受容し吸収した。(中略)しかし日本人には,徹底した批判精神に欠けるところがあり,現実に即した折衷融合の処理にとどまる欠点もある」(P115から引用)

・「日本にも昔から独自な世界観や人生観があり,また外国の思想を独自に受容しながらも,学問的な理論体系として哲学が確立され得なかったのは,この日本人の論理性の欠如が原因である」(p132から引用)

→江戸時代は鎖国やキリシタン迫害などによって,日本人がもつ寛容さを失いつつあったのかもしれない。そのため,徹底した批判精神が生まれ,論理的に物事を見るようになり,理屈っぽいと考えられるのではないだろうか。

7)古谷正勝,椎名市郎「江戸時代の商業活動の発展と商人の合理的精神 (I)」,『中央学院大学商経論叢6巻1号』,中央学院大学,1991,pp25-47

概要:江戸時代の商品経済の発展や特徴について述べ,合理的経済思想の形成と商人の革新的経済思想を考察している。

8)ムズラックル・ハリト「落語と演劇 : 落語における写実性をめぐって」,『千葉商大紀要57巻3号』,千葉商科大学国府台学会,2020,pp157-174

概要:従来の芸術と演劇における写実性とその分野での議論を踏まえながら,日本の伝統的な芸術と美意識を手がかりに,演劇としての落語における写実性を考察している。

9)ムズラックル・ハリト「落語と俳諧の類似点をめぐって―枝雀と芭蕉を題材に―」,『笑い学研究23巻』,日本笑い学会,2016,pp71-82

概要:落語と俳諧の「共同制作芸術」という魅力的な共通点に注目し,「演者=観客」といった劇的空間の面白みを通して,観客との関係を重視する落語について論じている。

 今回,「江戸時代の人は理屈っぽい」というような記述がある文献を探してみたが,残念ながら見つけることができなかった。前掲書6)『日本人の思想と行動』において,日本人は論理性が欠如していると述べられているが,江戸時代の社会的環境を踏まえると,江戸時代の人は理屈っぽいと言えるのかもしれないと考えた。

 現代の人は空気を読んだり柔軟な考え方をしたりすることが多いが,それは江戸時代と比べると高度情報化やグローバル化によって多様な考え方に触れる機会が格段に多く,多様性を認めようとする社会全体の流れも影響しているように感じた。一方で,江戸時代は鎖国やキリスト教の禁止などからもわかるように,画一的な考え方が好まれる傾向にあったので正論を貫くという点で理屈っぽいと言えるのかもしれないと考えた。

 しかし,根拠とはっきり言えるものを短期間で見つけることはできなかったので,今後様々な文献を読んだり江戸時代の文学作品に親しんだりして,「江戸時代の人は理屈っぽい」と言えるような根拠を探したいと思った。

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カツジ猫