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2020年前期集中講義発表資料⑧

(発表資料⑧です。受講者の皆さん、どうぞよろしく。
他の資料もそうですが、間違ってはいけないので、いただいたものを、そのままコピーしています。空白、空行も直していないので、見にくくなっているかもしれません。提出時には、その点も気をつけて下さるようお願いします。)

「源氏物語における『濡れ衣』について」

 

1.はじめに

私は、紫式部の作品である「源氏物語」の中から「濡れ衣」であると思われる場面を示す。

今回は源氏が須磨に退去する場面、六条御息所の生霊や死霊の存在の二つを挙げて、源氏物語に登場する「濡れ衣」を示す。

 

2.源氏の須磨への退去の場面

この場面では源氏が「予期せぬ濡れ衣」を着せられていると考えられる。

源氏は、朧月夜と密かに関係をもっていたが、自邸に帰りそびれたある日、朧月夜の父である右大臣に姿を見られてしまう。朧月夜の兄弟であり、桐壺院の妻である弘徽殿女御はそれを知ると激怒し、源氏を失脚させるために策謀をめぐらす。帝の后ではない内侍(朧月夜)との、参内前からの密会であるため、本来であれば源氏は追放されることはないはずだったのである。しかし、その後、源氏は須磨に自ら退去した。

本文中には、この右大臣側の策謀については明記されていない。しかし、当時の恋愛の考え方や以下の源氏の発言から、右大臣一派は謀反の罪を捏造しようとしたことが考えられる。本文は「新編古典文学全集 源氏物語②」(阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男、1995年、小学館)より引用する。

 

 

濁りなき心にまかせてつれなく過ぐしはべらむもいと  憚り多く、これより大きなる恥にのぞまぬさきに世をのが  れなむと思うたまへ立ちぬる。

 

 

ここは源氏の須磨へ退去する理由となったことに関して述べている場面である。重い罪に問われることは前世の報いであるとしつつも、心には何一つやましいことがないと信じていると述べている。源氏にとっては本来追放という重い罪に問われることはないはずが、実際にはそのような結果になった。ここから、弘徽殿女御を中心として源氏を追放しようとしたという陰謀が企てられていたと考えられるのである。また、藤壺との関係という決して許されない罪の意識があったため、それを考慮したと推測できる。

このように、須磨退去の場面で源氏は「予期せぬ濡れ衣」を着せられていると考える。

 

 

 

3.六条御息所

次に、「六条御息所」の「濡れ衣」について示す。

彼女は、生霊や死霊として女性を苦しめた悪役として源氏物語では描かれている。大臣の娘として位も高く、才色兼備であるものの、嫉妬の深い人物として描かれ、。葵の上とは対比させる形で物語が進められた。結果としては、生霊となり葵の上を殺したとされる。その場面における六条御息所の葛藤を以下に示す。中略は引用者が行った。(上記の「新編」の②から引用する。)

 

 

この御生霊、故父大臣の御霊など言ふものありと聞    きたまふにつけて、思しつづくれば、身ひとつのうき    嘆きよりほかに人をあしかれなど思ふ心もなけれど、    物思ひにあくがるなる魂は、さもやあらむと思し知ら    るることもあり。

(中略)

すこしうちまどろみたまふ夢には、かの姫君と思し    き人のいときよらにてある所に行きて、とかくひきま    さぐり、現にも似ず、猛くいかきひたぶる心出で来て、   うちかなぐるなど見えたまふこと度重なりにけり。

 

 

ここでは、六条御息所は故意的に葵の上にとりついて苦しめようとしていたのはないこ

とが分かる。殺したいとも考えてはいないが、源氏に振り向いてもらえないという嫉妬心から恨む気持ちがあったことは否定できない。そのために、自分が生霊であるということを強く否定することもできず、そのまま自分がそうであるのではないかと思い詰めていくことになった。

その後、紫の上や女三の宮の場面でも死霊として登場する。これは、六条御息所にとって「予期せぬ濡れ衣」であったと考える。

さらに、一歩引いて生霊や死霊の存在は当時と比べて信じられてはいない現代の視点で言えば、葵の上の場面では葵の上側の人々の戦略たる意志によって、悪役に仕立て上げられたとも捉えられるのではないかと考える。そのために、六条御息所は生霊であるという「濡れ衣」を着せられる結果となった。このように、現在の視点から物語を捉え直してみても、六条御息所は「濡れ衣」を着せられたと考えられる。

しかし、六条御息所の霊は、現代の視点から考えても、一貫して悪として登場することで物語をより面白くしていると言える。読み手は対象の人物が果たして生霊かという「真実」に期待しているのではなく、そこから生まれる展開に期待をしていると推測できる。そのため、「濡れ衣」の設定は文学の歴史において好まれているのではないかと考える。

 

 

【参考文献】

・「新編古典文学全集 源氏物語②」(阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男、

1995年、小学館)

 

 

以上、あらすじを示しながら説明を行ったが、発表時間の長さを考慮し、本文の引用

を割愛している。

 

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カツジ猫