2020年前期集中講義発表資料⑨
(新着の発表資料です。読んでおいて下さい。)
“暴露本”は「ぬれぎぬ」を晴らせるか
皆さんは「今だからこそ言える衝撃の真実」「最新技術によって解明された、あの事件の真相」というようなことが本の帯に書いてあったとき、ついその本を取って読んでみたり、興味を持ったりすることがないだろうか。このような帯が付いている本は、自伝やエッセイであることが多いのだが、最近では“暴露本”という、自伝やエッセイの部類から抜け出した新しい現代文学として流行しつつあるものがある。この暴露本には「かつて着せられたぬれぎぬを晴らしたい」という作者の目的があるように感じられる。今回の発表では、暴露本がぬれぎぬを晴らせるかについて考えてみたい。
最近有名な暴露本としては、浜崎あゆみについて書かれた『M 愛すべき人がいて』が有名で、皆さんも興味があったり、ドラマを見たりしている人もいると思うのだが、私は、あまり詳しくは知らないので、それとは別の3つの暴露本を取り上げたい。
1つ目は、ジョン・ボルトン氏の『The Room Where It Happened(それが起きた部屋)』である。この本についてや、作者のジョン・ボルトン氏については、ニュースで取り上げられていたが、説明すると、ジョン・ボルトン氏はアメリカのトランプ政権下の前大統領補佐官で、トランプ大統領と対立して解任されたと考えられている。そして、ジョン・ボルトン氏が書いた『The Room Where It Happened(それが起きた部屋)』は、ボルトン氏自身の回顧録であり、トランプ政権の内情を書いた“暴露本”である。ニュースでよく見る機会があるトランプ大統領のTwitterをはじめ、各国のメディアが発信するボルトン氏についての様々な情報により、「予期せぬぬれぎぬ」を着せられてしまったボルトン氏であるが、この“暴露本”の出版で、自身に着せられた「ぬれぎぬ」を晴らし、名誉を回復しようと考えたのだろうか。
2つ目は、小保方晴子氏の『あの日』である。覚えている方も多くいると思うが、この本の作者の小保方晴子氏は、「STAP細胞」の騒動の中心人物である。この本は“暴露本”でもあり自伝でもあるのだが、小保方氏はSTAP細胞のこと以外にも、あること無いことをゴシップとして報道され、「予期せぬぬれぎぬ」を着せられた。小保方氏は、この本を通して、STAP細胞のことはもちろん、その他のゴシップについて、「予期せぬぬれぎぬ」を晴らそうと考えたのだろうか。
3つ目は、明智憲三郎氏の『本能寺の変 431年目の真実』である。今年の大河ドラマの主人公として注目されている明智光秀であるが、明智光秀が起こしたとされている本能寺の変には、いまだに多くの謎が残されている。この本は今まで説明してきた“暴露本”とは少し違うのだが、この本で「明智光秀が着せられているぬれぎぬを晴らそうとしている」と考えることもできなくはない。
ここまで、3つの“暴露本”を紹介したが、“暴露本”によって「ぬれぎぬ」は晴らせているだろうか。私が考えた結論は「ぬれぎぬは晴らせない」である。もしも、暴露本によってぬれぎぬが晴れていれば、ジョン・ボルトン氏は大統領補佐官に復帰し(あるいは大統領補佐官以上の役職に就き)、小保方晴子氏は研究職に復帰し、歴史の授業で「明智光秀が本能寺の変を起こしました」と教えられることはなくなっているだろう。実際には、3人とも、ぬれぎぬが晴れたと言える状況にはない。
私は、“暴露本”によって「ぬれぎぬ」が晴れない原因について、「結局、どれが真実なのか分からない」という原因が一番大きいのではないかと思う。“暴露本”の情報が真実だったとしても、“暴露本”が出る前までの情報を信じていたら、どうしても先入観を持ってしまって、“暴露本”の内容が嘘に感じてしまったり、疑いの目で見てしまうことがあるのではないだろうか。そして、「結局はわからない」と考えることをやめてしまうことがあるのではないだろうか。ただ、“暴露本”の作者は「この本の内容こそが真実で、着せられたぬれぎぬを晴らしたい」と思って書いているはずである。
もし、「ぬれぎぬ」を着せられてしまったとき、あなたは“暴露本”を書きますか。
出典
・ BBC NEWS JAPAN
「ボルトン前米補佐官の暴露本、出版差し止め請求を棄却 米連邦地裁」
・ 産経WEST「「印税に心売ったか!?」小保方手記に憤怒の声 理研で回し読みされたメディア〝実名暴露〟」
・ Amazon.co.jp「本能寺の変 431年目の真実」