2020年前期集中講義発表資料⑯
(発表資料が届いています。受講生の皆さんは読んでおいて下さい。)
私は、湊かなえの原作をもとに作られた「白ゆき姫殺人事件」という映画を取り上げながらぬれぎぬについての考察を述べていきたいと思う。
【主な登場人物】
・赤星雄治(綾野剛)
・城野美姫(井上真央)
・三木典子(菜々緒)
・狩野里沙子(蓮佛美沙子)
・谷村夕子(貫地谷しほり)
・前谷みのり(谷村美月)
相関図(https://blog.goo.ne.jp/taku6100/e/19360796650b9c82459406a9681d448c)
【内容】
長野県のしぐれ谷公園内で、化粧品会社の美人OL・三木典子が遺体となって発見される事件が起きた。テレビ局のワイドショーの契約ディレクターをしている赤星雄治は友人から電話を受け、ネット上で『白ゆき姫殺人事件』と呼ばれている今回の事件について知り、SNSで本名を伏せた状態で事件の情報を逐一つぶやきながら調べていく。
被害者三木の同僚らの証言から、城野美姫が容疑者として浮上する。赤星はワイドショーで同僚たちの証言を放送し、城野は「Sさん」として大きく取り上げられることになる。放送終了後、赤星の取材は反響を呼び、ネット上で城野の実名などが流出し始める。「Sさん」についてネットが炎上する中、赤星のもとに城野の親友であるという前谷みのりから手紙が届く。このことがきっかけで城野の学生時代の関係者にも証言をもらいにいくようになる。娘が犯人だと考えていた両親は謝罪をし、その様子がワイドショーで流され、まるで城野が犯人だと決めつけた内容の放送となった。騒ぎはさらに大きくなり、行方不明になっていた城野に注目が集まるようになる。
後半は城野本人の証言(赤星に言った訳ではなく遺言書に書いている)により、事件前後の城野の行動が明かされていく。城野の話は今までの証言とはほとんど異なっており三木に対して思うところはあったものの、実際に三木を殺害した犯人ではなかった。
遺書を書いた翌日、ホテルで三木典子殺害のニュースを見たことで罪悪感から自殺を図ろうとするが、犯人が逮捕されたことを知り思いとどまる。犯人は城野を利用して計画を進めていっていたのだった。
真犯人が分かると、ネット上では犯人だと疑われた城野を同情する声が多数上がり、事件を取材した赤星に非難が殺到した。
【ぬれぎぬを着せたのは誰か】
この物語の中でぬれぎぬを着せられた人は誰かと考えた時、誰もが「城野美姫」と答えることが予想される。三木典子を殺害したという身に覚えのない罪を着せられている点から、これは「予期せぬぬれぎぬ」に分類されるのではないかと考える。また、遺書を残してから自殺しようとしており、実際には殺していないという真実を残そうとしていることに着目すれば「怒りのぬれぎぬ」にも入るかもしれない。
では、ぬれぎぬを着せたのは誰だろうか。真犯人がはじめに思い浮かぶのはもちろんだが、ネット上のみで犯人のような扱いを受けていたことを考えると、犯人のように仕立て上げた動画を作成し、情報をSNSに乗せていた「赤星雄治」もぬれぎぬを着せたことになるのではないだろうか。またSNSで赤星の情報に踊らされ、城野は犯人であるというような書き込みをした人物、赤星の動画の信憑性を確認すること無く放送したテレビ局もそれに当たるのではないかと私は考える。
【この作品を通して考えたこと】
この作品を通して、私は意識的にぬれぎぬを着せることはもちろん、無意識に誰かにぬれぎぬを着せていることにとても恐怖を感じた。現代はSNSの発達によって情報が一気に拡散してしまい、また一度流出してしまった情報を消すことは難しい。ぬれぎぬを着せるような発言をするときに、一度踏みとどまる必要性があると感じた。
また、この作品は「予期せぬぬれぎぬ」であるが犯人以外の証言者は悪意を持って城野を犯人に仕立て上げたのではない。城野に対する偏ったイメージからつなげてしまったのである。人に対して「こうだ」と決めつけてしまうことも無意識のうちにぬれぎぬを着せてしまう要因になるということが分かった。
文学等の「ぬれぎぬ」は私たちに非日常を味わわせてくれるためとても大切な要素であると思うが、現実ではどのような「ぬれぎぬ」であっても認めてはならない。広い視野を持って無意識のうちに加害者にならないよう生活していくためにも、今後も様々な作品に触れて「ぬれぎぬ」について考えていきたい。
【参考文献】
※映画のホームページが見つからなかったので原作の書籍のホームページのURLを貼っている。