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2021年「古典文学講義A」のレポート(4)

〈地域による「花咲かじいさん」の伝承の違い〉

1.はじめに

 日本には、「花咲かじいさん」という有名な昔話が存在する。この「花咲かじいさん」は、北は青森から南は九州に至るまで広く全国に伝わっているが、現在のような形式になったのは室町時代末期から江戸時代初期にかけてである(1)と言われている。これについて岡崎女子大学の赤羽根有里子氏は、『江戸期昔話絵本「花咲爺」の構造 ‐本文のモチーフ構造(一)‐』(2)の中で、『枯木(かれきに)花咲かせ(はなさかせ)親仁(じじ)』や『花さきぢゞ老楽のゑいぐわ』、『昔話枯木花』、『勧善花咲爺』などを、江戸期昔話絵本諸作品の中から「花咲爺」にあたると列挙していた。

 このように、古い歴史を持つ「花咲かじいさん」だが、その内容は地域によって少しずつ違いが見られる。本稿では、「花咲かじいさん」の地域による内容の違いについて実例を挙げながら明らかにしていく。

 

2.一般的な「花咲かじいさん」

 地域による「花咲かじいさん」の違いを見ていく前に、まずは一般的な「花咲かじいさん」の内容の例として、青空文庫に掲載されている「花咲かじじい」(3)の内容を以下に要約する。

 正直なおじいさんとおばあさんは、飼い犬の白を本当の子どものようにかわいがっていた。ある日、その正直おじいさんがいつものようにくわをかついで畑を掘り返していると、白がついてきて「ここほれ、ワン、ワン。ここほれ、ワン、ワン。」と鳴いた。言うとおりに掘ってみると小判がたくさん出てきたため、正直おじいさんとおばあさんは急にお金持ちになった。となりの欲張り爺さんはそれを聞いて大変にうらやましがり、白を借りて畑の方へ引っ張って行った。白が苦しがってそこらの土をひっかいたため欲張り爺さんがそこを掘り返してみると、きたないものがうじゃうじゃと出てきた。そうして欲張りおじいさんは腹立ちまぎれに白を殺してしまったのだった。

 正直おじいさんとおばあさんは悲しみ、庭の隅に白を埋めてその上にお墓代わりの小さい松の木を植えた。するとその松がみるみる育ち、大木になったため、正直おじいさんは餅が好きだったという白のためにうすをこしらえた。そしてそのうすで餅をつくと、あとからあとから米が増えて、やがて台所いっぱいに米があふれてしまった。それを知った欲張りおじいさんとおばあさんはうすを借り、同じことをしたが、中からはうじゃうじゃと汚いものが出てきただけだったため、欲張りおじいさんはかんしゃくをおこし、うすをたたき割って薪にして燃やしてしまった。

 それを知った正直おじいさんは悲しんで、灰になった松の木を白のお墓の所まで抱えていく。するとどこからか暖かい風が吹いてきて、灰を庭いっぱいに吹き散らしたかと思えば、そこらにあった枯木に満開の桜や梅を咲かせたのだった。正直おじいさんは喜んで、「花咲かじじい、花咲かじじい、日本一の花咲かじじい、枯木に花を咲かせましょう。」と往来をよんで歩く。向こうからやってきた殿様はそれを気に入り、正直おじいさんにたくさんの褒美を与えた。するとまた欲張りおじいさんはそれをうらやましがり、同じことをしたが、ただ灰をまき散らしてしまっただけだったため、とうとう牢屋へ連れていかれてしまったのだった。

 

3.各地の「花咲かじいさん」

 まずは、岩手県と岐阜県に伝わる「花咲かじいさん」から見ていく。まんが日本昔話のデータベース(4)によると、岩手県と岐阜県の「花咲かじいさん」に登場する犬の名前は白ではなくぽちだった。また、正直おじいさんは優しいおじいさんと呼称されていた。岩手県と岐阜県の「花咲かじいさん」では、そのぽちは最初から優しいおじいさんが飼っていたわけではない。欲張りおじいさんに追われていたところを優しいおじいさんが助け、そのまま飼うことになったのである。他にも、欲張りおじいさんが畑を掘り返して出てきたものは汚いものではなく蛇や化け物であり、優しいおじいさんがうすをこしらえたのは松の木が「うすにしてくれー。」と言ったからである。さらに、そのうすで優しいおじいさんが餅をついたところ、餅が増えるのではなく小判に変化した。欲張りおじいさんがそれをまねすると、汚いものが出てきたのではなく餅が泥団子に変わったのだった。これらの違いを箇条書きでまとめると、以下のようになる。

 

・白→ぽち

・正直おじいさん→優しいおじいさん

・白は最初から正直おじいさんに飼われていた→欲張りおじいさんに追いかけられていたぽちを優しいおじいさんが保護して飼うことになった

・畑から汚いものが出てきた→蛇や化け物が出てきた

・松の木をうすにした→松の木が「うすにしてくれー。」と言った

・餅をつくとお米が増えた→餅をつくと小判に変わった

・餅をつくと汚いものが出てきた→餅をつくと泥団子に変わった

 

 次に、山形県川俣町に伝わる「花咲かじいさん」を見ていく。川俣町のホームページ(5)に掲載されていた昔ばなしによると、犬に名前は付けられておらず、文章中では一貫して「犬」と呼ばれていた。また、「ここほれ、ワン、ワン。ここほれ、ワン、ワン。」という犬の言葉が「こご掘れ、ワンワン。こご掘れ、ワンワン。」となっているなど、全体的に方言を強く反映した文章となっている。さらに、欲張りおじいさんが犬やうすを貸してほしいと言ってきたときに、おじいさんは快諾せずに「やんだ。」や「とんでもねえ。」と言って断っていた。他にも、おじいさんが餅をついたときに出てきたのは大判や小判だったり、灰をまくときに「一振り振れば、つーぼんだー。二振り振れば、ひーらいだー。三振り振れば、つーぼんだ。」という歌を歌っていたりと、様々な違いが見られた。これらの違いを箇条書きでまとめると、以下のようになる。

 

・白→犬

・「ここほれ、ワン、ワン。ここほれ、ワン、ワン。」→「こご掘れ、ワンワン。こご掘れ、ワンワン。」(方言が強い)

・欲張りおじいさんがのお願いを快諾→欲張りおじいさんのお願いを断っている

・灰を枯木にまく→独自の歌がある

 

 山形県には、上記の他にも一般的なものとは違った「花咲かじいさん」が伝わっている。高橋良雄さんの及位の昔話『花咲か爺じい』によると、犬はもとから正直おじいさんが飼っていたわけではなく、おじいさんが拾ってきたものだとされていた。また、正直おじいさんが畑を掘って小判が直接出てきたのではなく、瓶いっぱいの小判や大判だった。これらの違いを箇条書きでまとめると、以下のようになる。

 

・犬はもとから飼っていた→犬はおじいさんが拾ってきた

・小判が畑から直接出てきた→瓶に入った小判や大判が畑から出てきた

 

同じ山形県の「花咲かじいさん」ということで、川俣町に伝わる「花咲かじいさん」と共通したところが多かったが、上述した2つの違いは一般的な「花咲かじいさん」との間に見られるだけでなく、川俣町の「花咲かじいさん」との間にも見られるものだった。これらの他にも、山形県には重要無形民俗文化財の新庄まつりというものがあり、平成4年に開催された新庄まつりの中の物語部門では「風流花咲爺」という神輿が作られていた。これらのことから、山形県には他県と比べても特に独自性を持った「花咲かじいさん」が伝わっていると言えそうだ。

 

4.まとめと今後の課題

 これまで、一般的な「花咲かじいさん」の内容と日本各地の「花咲かじいさん」の内容との違いについて、実例を挙げながら明らかにしてきた。本稿で取り上げたのは岐阜県、岩手県、山形県の3県だったが、それぞれに独自の違いが見られた。特に山形県には地域によって違う伝承が見られたりお祭りの中に「花咲かじいさん」が取り入れられていたりと、「花咲かじいさん」との深いつながりを感じることができた。

 また、本稿では東日本の3県における「花咲かじいさん」にしか触れることができなかったため、西日本における「花咲かじいさん」について調べることを今後の課題としたい。

 

 

【参考文献】

(1)いずみ書房 オンラインブック せかい童話図書館(最終閲覧2021年11月11日)

https://www.izumishobo.co.jp/onlinebook/c01_dowa/jijii/index.html

(2)赤羽根有里子『江戸期昔話絵本「花咲爺」の構造 ‐本文のモチーフ構造(一)‐』岡崎女子大学研究紀要 2014年3月25日 (最終閲覧2021年11月11日)

https://core.ac.uk/download/pdf/228594039.pdf

(3)青空文庫 『花咲かじじい』楠山正雄 (最終閲覧2021年11月11日)

https://www.aozora.gr.jp/cards/000329/files/3391.html

(4)まんが日本昔話 (最終閲覧2021年11月11日)

http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=21&cid=30

(5)川俣町ホームページ (最終閲覧2021年11月11日)

https://www.town.kawamata.lg.jp/site/mukasi-banasi/hanasaka.html

国重要無形民俗文化財新庄まつりホームページ (最終閲覧2021年11月11日)

http://shinjo-matsuri.jp/db/1992_15

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