2021年「古典文学講義A」のレポート(5)
『ショーシャンクの空に』
◆作品情報
『ショーシャンクの空に』一九九四年
原作『刑務所のリタ・ヘイワ―ス』一九八二年、スティーブン・キング、『恐怖の四季』収録
◆発表構成
一,『ショーシャンクの空に』あらすじ
二、情けある刑務官たち
三、情けあるおのこ
四、まとめ
一,『ショーシャンクの空に』あらすじ
一九四七年、若いながら銀行の副頭取を務めるアンドリュー・デュフレーン(アンディ)は、妻とその愛人を射殺した罪に問われた。アンディは無実を訴えるも、終身刑を言い渡され、ショーシャンク刑務所への投獄が決まってしまう。
ショーシャンク刑務所で長年服役しているレッドは模範的な服役態度から仮釈放の申請をするも、毎回却下されてしまう。落ち込むレッドと入れ違いに、アンディを含む受刑者たちが護送されてくる。
暴力的な刑務官や受刑者に囲まれ、アンディは孤立する。その時、「調達屋」と呼ばれていたレッドにアンディは声をかけ、小さなロックハンマーを購入する。アンディは小石を拾って、ロックハンマーで器用にチェスの駒を作っていた。この件をきっかけに、アンディとレッドは友情を深めていく。
服役開始から二年、アンディはレッドの口利きで屋根の修理作業に参加していた。アンディは主任刑務官の遺産相続問題を知り、元銀行員の経理知識を活かし、作業仲間への冷えたビール提供と引き換えに解決策を教える。この件からアンディは仲間に受け入れられていく。一方で、財務管理の力を認められ、刑務官からも一目置かれる存在となった。その頃、アンディの房には、レッドに頼んでいたリタ・ヘイワ―スの大判ポスターが刑務所内での暴力による怪我の回復祝いとして壁にかけられていた。
その頃、ノートン所長は更生を図るという名目で囚人を野外作業に駆り出し、私腹を肥やす。アンディは図書係に選任されるが、それは「ランドール・スティーブンス」名義で所長の多額の不正財産を隠蔽させるためだった。
そんな中でも希望を失わないアンディは州議会に何度も手紙を書き、ついには年度毎の予算を確保し、ガラガラだった図書室を、囚人たちの教育施設にまで成長させる。図書館への寄贈物に「フィガロの結婚」のレコードを見つけたアンディは、勝手にレコードを書内放送で流す。囚人たちは一時心を和ませるも、アンディは懲罰房送りとなってしまう。
一九六五年、新人囚人のトミーはレッドたちと仲間になった。更生を目指す若いトミーを応援するアンディ。アンディはトミーに読み書きから勉強を教え、ついにトミーは高校卒業資格を取得するまでになる。そのなかで、アンディが収監されるきっかけとなった事件の話を聞いたトミーは、自分は真犯人を知っているかもしれないとアンディに伝える。
アンディは所長に再審請求を願い出るが、不正財産隠しに関わってしまっているアンディを自由にする気は所長にはなかった。所長に暴言を吐いてしまったアンディは懲罰房に入れられてしまう。所長と主任刑務官は、アンディを刑務所内に留めておくためだけにトミーを呼び出して、秘密裏に射殺してしまう。
衝撃的なトミーの死を一か月後、懲罰房を出されたアンディの様子はいつもと違っていた。その夜、嵐の晩となった日、レッドにある伝言を残し、アンディは刑務所から姿を消す。翌朝アンディが居ないことに気づいた所長たちが彼の自室の壁にかけていたポスターを剥がすと、裏の壁には大きな穴があいていた。アンディは刑務所にいた二十年ほどの間、レッドに調達してもらったロックハンマー一つでずっと壁を掘り続け、一九六六年の嵐の晩、ついに脱獄を果たしたのだった。
アンディはスティーブンス名義で所長のかくし財産を全額引き落とし、同時に、新聞社に所長の不正の告発状を送り付け、メキシコへ逃亡を果たす。告発によって主任刑務官は逮捕、進退窮まった所長は逮捕される前に刑務所の自室で、自身の頭を拳銃で撃ちぬくのだった。
レッドは服役四十年目にしてようやく仮釈放を受けることができた。長期間刑務所にいたレッドは外の生活になじめず自殺を考えるが、最後の希望にといつかアンディと話した木下へと向かい、現金と手紙を手に入れる。その手紙に書かれていた場所、メキシコのジワタネホへと向かう。そこには、かつて刑務所で話したように、海岸で自分のボートの手入れをするアンディがいた。二人は再開を喜び、笑顔で固く抱き合うのだった。
二、情けある刑務官たち
刑務所の中で、所長は金に汚く、アンディを奴隷のように扱う、いわゆる悪代官のような役割を担っている。また、アンディが手塩にかけて勉強を教えたトミーを殺すなど、その残虐性を見せる。
その一方で、アンディに情けをかけた刑務官がたびたび登場する。
初めに登場するのは、遺産相続に問題を抱えた主任刑務官に対して、無償で相続の申請書作成をアンディが申し出る場面である。この時、無償とはしつつも、アンディは仲間にビールを提供するように主任刑務官に申し出る。この主任刑務官はレッドに「鬼主任」と呼ばれるほど、囚人に対して厳しい一面を持っている。しかし、遺産相続に係る処理をアンディが申し出たことによって、他の囚人にビールが提供される。アンディは仲間へのビールを見返りに自身の無償の奉仕、主任刑務官は遺産の獲得という思惑が成立する。しかし、ここでの関係は主任刑務官と囚人という、圧倒的な上下関係の中でこのやりとりが成立したのは、単に主任刑務官の欲深さが出ただけという見方もできるが、情けをかけたと見ることもできるのではないかと思う。
次に登場するのは、アンディが州議会から図書館の費用を勝ち取った場面である。ここでは、刑務官はアンディに「粘り勝ちだな」と声をかける。行為としてはそれだけであるが、アンディはこの一言に救われたと見ることができる。なぜなら、アンディは「安らぎ」や「希望」といった、刑務所内には到底ありそうもないものを常に求め続けていたからである。それは、アンディが主任刑務官からビールを勝ち取ったとき、レッドが「アンディは安らぎを求めていた」という旨の心内語が映画では描かれている。そのような状況で、刑務官からかけられる労いの言葉は、情けと言っても良いのではないかと考える。
最後はトミーが高校卒業資格を取った場面である。この時アンディは所長に暴言を吐いたため懲罰房に入れられており、トミーが高卒資格を受け取った場面を見ていない。また、懲罰房から出る時も、トミーは脱獄を謀ったため射殺されたと、所長から虚偽の事実を伝えられる。陰惨な一連の流れだが、この場面でも刑務官からの情けがあった。それは懲罰房に入れられていて、外部から一切隔絶されている中で、食事を運んできた刑務官からトミーの合格を告げられる。一年間トミーの勉強に付き合ったアンディとしては、これほど幸せなこともないかと思われる。そして、そのことを、本来であればトミーが射殺されたのちに懲罰房を出て知る事になるが、会えなかったとはいえ、トミーが生きているうちにその合格を聞けたのはアンディにとって希望であったと推測される。これは、懲罰房に一か月も入れられているアンディに同情し、気遣った結果の刑務官の情けだったのではないかと思う。
三、情けあるおのこ
二章で示した刑務官たちの行動が、『情けあるおのこ』(花書院、板坂耀子、二〇二一年九月)に所収の「理解ある警吏たち」「親切な主人たち」「かかわった旅人たち」のどれにあたるのかという問いであるが、『ショーシャンクの空に』を分類するとすれば「理解ある警吏たち」の「番人たち」にあたるだろう。舞台が刑務所であるという物語の性質上、刑務官と囚人である主人公との関係で、番人タイプと分類して差し支えないだろう。
四、まとめ
今回は映画『ショーシャンクの空に』を用いて、「情けあるおのこ」について考察した。一つ目に、刑務官と交渉してビールを勝ち取り、二つ目に州議会から図書館費を勝ち取って刑務官から労いの言葉をもらい、三つ目にトミーの合格の報せを刑務官から受けた。これら三つの行動が、アンディに対して刑務官の情けある行動と考えた。
しかし、映画は、映画そのものから発せられる情報が字幕以外にも音声(英語と和訳との差異)や、役者の表情、無言の間など、書籍よりも、更に複雑な情報が大量にある。そのため、これら三つの行動についても、情けある行動とする根拠が足りなかったかもしれない。今後の課題としては、映像作品を扱う際の、根拠とするものは、根拠として信頼できるのかを丁寧に確認していきたい。