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断捨離新世紀(5)グラジオラスを救え!

グラジオラスを救え!

母のポリシー

亡くなった母はグラジオラスが嫌いだった。理由は単純で、花が咲いてもすぐ倒れてしまうからいやだというのだった。
そんなの考えて見れば、切り花にして飾ってしまえばいいのだが、我が家にはなぜか花は切って家の中に飾るよりは、庭に生えたままめでるという不文律があったようで、庭でしゃんと咲いていられない花なんかしょうがないという感覚が、どこか母にはあったようだ。

私はわりと早く三十代でローンを組んで家を建てた。土地も家も合わせて一千万ぐらいの、とても安い家だった。庭もあったが変形で扱いにくく、私は適当に行きあたりばったり、これまた安い花や木を植えていた。

いつだったか覚えていないが、グラジオラスの球根を三ヶ所に植えた。母のことばを忘れていたわけではないが、そもそもあまり真剣に考えずに植えたのだ。花は三ケ所とも一応咲いたような記憶があるが、やっぱりすぐに倒れていたし、私も切って飾るという発想がなくて、そのままにしていた。

壊滅寸前

そうこうする内、三十年以上の月日が流れた。いろいろあって、私は家の前の小さい空き地を購入して、母の隠居所用にワンルームの小さい家を建てたりした。もともと変形の庭はますますおかしな状態になり、行きあたりばったりに植え続けた木や花の中で、三ヶ所のグラジオラスは毎年咲き続けてはいたものの、ともすればどこかに消えてしまいがちだった。

この夏、一念発起して、庭の整理にとりかかった。長い間に、毎年どこにどんな花が咲くか、木を刈ったり草を取ったりするのには、どう庭を作ればいいかが、経験から何となくのみこめて来ていた。ただしこれはもう、絶対に私の庭でしか通用しないマニュアルではある。

三ヶ所のグラジオラスは、どれも放置されてめちゃくちゃになっていたが、それでも玄関へ続く通路の横の一群だけは、枯れた葉の中からも何とか生きのびてくれていた。

玄関脇のもう一群は、これはまた栄えに栄えて毎年みごとな光景を見せるユキヤナギの群生におおわれてしまって気息奄々の状態だったが、まだ枯れきってはいなかった。今年は思いきってユキヤナギを少し刈り込めば、復活してくれるかもしれない。

一番かわいそうなのは、やはり玄関横の一群で、雑草に包まれた上に、水まきの時にホースの下敷きになる位置になってしまって、けなげに葉は出ているものの、ほとんど壊滅状態だった。ここはイチゴもはびこっているし、笹も生い茂っている。
どうしてもホースの下になる場所ではあるし、ここはもう、イチゴの跋扈にまかせることにして、球根を全部掘り上げた。

いざ新天地へ!

小さい球のようなものまで、指先で探って掘り上げて、皿に乗せ、玄関先に置いて、数日の間、新天地を探して見たが、なかなかいい場所がない。

実は私は、せっかくの庭造りだから、どの一角も南国風だの田舎風だの昔風だのと、テーマを決めて花たちを演出させようと、ろくでもないことまで考えているものだから、空き地があってもそうそううっかり、似合わない花は植えられないのだ。

結局、一番しっかり残っていた一群のそばに、ブロックで囲った一角を作り、そこに球根を埋めてやることにした。実はこの夏、体調もあまりよくなく、力仕事ができないので、ブロックの移動もままならず、こういう小さい空間にせざるを得なかった。

でもまあね。今までよりは、ずっとましな環境のはずだ。
野良猫がいたずらしないように、上から枯れ草や枝でおおって、私は長いこと苦労させた球根たちの復活を待ちながら、毎日水をかけている。
首尾よく再生してくれたら、今度こそ、倒れないようにしっかり支柱も立ててやりたい。(2021.10.28.)

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カツジ猫