(26)銀色のくし
(「日本共産党むなかた東部後援会ニュース」第2号に原稿を依頼されて書いたもの。短いですが、内容は同じ性格のものなので、こちらに収録しておきます。)
もう十年以上も、田舎の家や親戚の家の片づけに時間をとられている。私自身の物も多くて、棚の奥から自分でも忘れていたようなものが続々出てくる。
その中に銀色の小さなくしが二本ある。金属製で安物っぽくて、私が死んで残ったがらくたを誰かが片づける時には、まっさきに処分されてしまいそうだ。
よく見ると、一本はふつうのくしだが、もう一本は飛行機のかたちをしている。そして、どちらにも細かい英語の文字が刻まれている。老眼の私にはよく読めない小ささだが、最後に近く「ヴェトナム」の文字が見える。
そう、これはベトナム戦争たけなわのころ、映画「ベトナム」でも紹介されたように、村人がライフル銃か何かで撃ち落としていた米軍の戦闘機の破片で作ったというものだ。当時学生だった私たちにカンパ用にと送られてきた。多分一本千円か二千円かした気がする。指輪もあった。毎朝大学の門の前でベトナム戦争反対のビラまきなどしていた私は、指輪もくしも張りきって、いくつか買った。たしかその後、故郷の共産党の議員さんにさしあげたら、すごく喜んで下さった記憶がある。その議員さんももう亡くなられた。
今、ジェラルミン製の軽いくしをながめていると、非人道的なあらゆる攻撃に楽天的に耐え抜いて勝利したベトナムの人たちのしなやかな強さとともに、正義ではない戦争に参加して撃墜された米国の若者の苦しみも伝わってくる。(2017.8.10.)