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(64)ちょっとだけ、誇らしい

今年の夏は本当に暑かった(もう過去形で言っていいのかどうかわからないけど)。
私は近所のスーパーに買い物に行くと、普通その後、なじみのお店に立ち寄ってオーナーとおしゃべりしたり、郵便局に寄ってハガキを出すついでに新しく出た記念切手を買ったり、レンタルショップでDVDを物色したり、量販店で猫の草や砂や缶詰を買ったり、時にはケーキ屋さんのすみのコーナーでちょっとお茶したり、遊びほうけて道草をして帰るのだが、もうそんなことどころではなく、買い物をすませると速攻で家に帰って、牛乳や肉や魚を冷蔵庫に突っこまないと、とても安心できなかった。たまにどこかに寄るときには、大急ぎで用事をすませて車に戻らないと、車内が燃えるようになっている。

ところで、そんな中、スーパーで回収してくれる資源ごみの、プラスティック製品を仕分けして、シンクの下の大きなビニール袋にためているのがいっぱいになったのを、捨てようと思って夜の内に車に積んで、そのまま忘れて買い物に出るのが昼過ぎになったりする。ときには、やむを得ない事情で二日ほど積みっぱなしになることさえある。
毎回気づいて、しまったとあせるのだが、車内はすさまじい暑さなのに、まったく悪臭がしない。そんなとき、私はちょっと誇らしくなる。まさか、いい論文を書いたときと同じぐらいの充実感、とまでは行かない、そこまで行ったらおしまいだが、その内そうなるかもしれないのが恐い。

もちろんそれは、私が魚の入っていたパックや、おかずの詰まっていたケースを、ていねいに洗って袋に入れているからである。それにしても、熱波の密室の中、わずかな臭気ぐらいはしそうなものだが、それがまったくないのは、自分でも出来過ぎではないかと驚く。
でも、考えてみれば、スーパーのごみ置き場にもそんな臭気はまったくないから、特に監視員がいなくても、皆が私と同じくらいには、きれいに洗っているのだろう。

地域でも月に一回、分別ごみの収集があって、私たちが当番制で世話をする。かんやびん、プラスティックなどのかごを置いて、持って来た人たちが入れていくのを見守る。
そうしていると、ときどき、年配の男性などが、充分に洗っていないプラスティックのごみがつまった袋を持って来られることがある。こういうごみ収集は、いろいろトラブルも生じることがあるらしくて、基本的には持ってきたごみの中味を、私たちはチェックしたり差し戻したりはしない。
それでも、そういう汚れたごみがまじったら、私がせっせときれいにして出したプラスティックのごみも、結局汚れてしまうのだなあと思うと残念で、私はときどきこっそり、そういう汚れたごみの袋は、にっこり笑って受け取って、別にしておいて、燃えるごみの日に私のといっしょに出したりしている。

そう言えば、まだこういう分別ごみの制度がはじまったばかりのころ、カルチャーセンターの講座のあと、奥さま方と雑談していて、私がパックやケースを洗って資源ごみに出していると話したら、奥さまの一人が「うちでもやってますけど、もう洗剤を使うのがかえって無駄じゃないかと思って」と嘆かれた。詳しくそれ以上は聞かなかったが、あとで思うと、もしかしたらお嫁さんが分別に熱心で、私が母にがみがみ言うように、洗わなきゃダメ、分けなきゃダメとやかましくて、その奥さまは閉口されていたのかもしれない。

私はもともと、家の中のくずかごには汚いものは絶対捨てない。素手でさわれないもの、ほおずりできないもの(笑)は入れない。
友人の一人に、くずかごをとてもきれいにしておく人がいて、大事なものはくずかごの中に保管するというすさまじさで、その内に札束か貴重品をまちがって捨てるんじゃないかと心配になるほどだった。実際それに近いことも何度かあったらしい。
その影響も少しはあるのか、私もメモ用紙がないと、くずかごから拾った紙を使ったり、うっかり捨てたかもしれないものを探して、底から全部ひっくりかえしたりすることは時々ある。だから、食べかけのお菓子や、鼻紙などは入れない。くずかごは、私やその友人にとっては、基本的に、きれいなものを入れる場所なのだ。

じゃ、汚れたものはどうするかというと、たとえば猫のトイレの砂などは、燃えるごみに出せるものを使っているから、ビニール袋に入れてしっかりしばって、戸外の大きな、燃えるごみ用のポリバケツに直行させる。これも、砂の匂い以外はしない。
生ごみはすべて、庭のコンポストに入れる。一時、料理にはまっていた時、満杯になりそうで心配したが、よくしたもので、この夏の猛暑のせいか、あっという間に分解して、一定の量以上には増えない。その養分が広がるのか、周囲の樹木や草花は極めて生育がいい。

洗ってもいまひとつ汚れが取れなくて、資源ごみに出せないものは、キッチンにおいてある、臭いの出ないホーローのふた付きバケツに入れる。ビニール袋を入れているので、それがいっぱいになったら、しばって戸外の燃えるごみ用のポリバケツに移す。
ホーローのふた付きバケツは、まめに中味を捨てられるよう、小さめのものを使っている。考えようでは、これが一番がんばっているのだから、いつもきれいにして、台所のすみっこではなく、わりと手前においている。

それでも臭いがこもらないよう、小さなものでも汚れていたら、そのままは捨てない。サランラップで包んでもいいのだが、なんだかだで、小さなビニール袋が余るので、それに入れてはしばって入れる。
そういうビニール袋を入れておく、三つのバケツがついた物入れが、調理台の向かいの壁にかかっている。右側の二つには、スーパーやその他でもらう新しいきれいな袋をためて、果物や野菜の残りなどを入れて、冷蔵庫にしまうのに使う。菓子パンなどの入っていたもっと小さい汚れた袋は一番左に入れて、汚れたものはこれに入れてしばってホーローバケツに入れる。

この二つがめいっぱい活躍してくれているから、シンクの下の大きな袋に入ったプラスティックの資源ごみは、猛暑の車内に数日放置しても何の臭いもしないほど、清潔さを保てるのだ。
なお、白色トレイと紙パックも、シンクの下の箱に仕分けして入れ、たまったところでスーパーの資源ごみ置き場に持って行く。かんやびんなど、少し遠くの集積場に持って行くものは、やはりきれいに洗って、ポリ容器のダストボックスに保管する。これはあまりたまらないので、いっしょに入れて、出すときに仕分けすればいい。

原発がトイレのないマンションとよく言われる(事実である)。そうならないために、ごみがきちんと順調に出て行くようにしておかないと、住宅の健康は保てない。そういう点では、これらの道具ひとつひとつは、私の生活の最前線で、生命線でもあり、常に感謝と尊敬を払うのにやぶさかではない。(2018.9.1.)

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カツジ猫