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「ソルト」感想(4、おわりです)。

時間もないから手っ取り早くかたづけちゃうと、私、今回この映画の「ボーン」シリーズに比べての、しまらなさは、この「潜伏スパイ」という存在に対する自分の気持ちを、監督がきちんと整理してないと思うんだよね(わー、えらそうに言ってしまった)。戦慄すべき残酷なものと思うのか、それとも、どっか恐いけど魅力的な部分もあると思うのか。
そこをしっかり押さえたら、どんな作り方でももっとポイントが定まり、パンチもきいてくると思うんだけど。

潜伏スパイっていうか、スパイの根本にあるのは、洗脳だけではすまない、思想や信仰だと思う。自国の体制、未来への理想、そういうものがどこかになければ、何十年も培った自分の土壌を、人は捨てられないし、裏切れない。
現実にふれて、見て、いっしょに暮らしている存在は重い。それを切りすて、忘れるためには、現実だけではない理想や夢もあるはずだ。
ソルトにとって、それは何だったのか。そこが、あの映画では、わかりやすく伝わって来ない。

て言うか、彼女が比較し選んでいるのは、古い現実と新しい現実だけのように見える。思い出と今と。考えようでは前の恋人と今の恋人の間でゆれている女性と同じ程度のように見える。
まあ、現実に潜伏スパイも、スパイも、そんなものかもしれない。思想や信仰なんて、今も昔も、実はそんなに力は持たないものかもしれない。

でも、「アラビアのロレンス」(といきなり言うが)なんかでもそうだが、理想や夢は時に現実を変える。特に社会主義や共産主義、フェミニズムなんかもそうだが、実現しない未来を信じて戦う人には、それは、というか、それだけが武器だ。ネルソン・マンデラだって、チェ・ゲバラだって、来るべき世界を夢見て信じたからこそ、現実と戦えた。

諜報員ソルトがどういう生き方を選ぶにしても、一応彼女もスパイとして、しかもCIAの一員として生きてきたからには、何もそういうものがないわけはない。彼女の仲間たちにも、それなりに。どんな未来を夢見、信じて、彼らは自分の戦いをし、かつての仲間を裏切るのか。その葛藤や決断を、娯楽映画らしくわかりやすく面白く描くことは、できないはずはない。
「ミッション・インポシブル」や007なみの活劇の道具立てとして「潜伏スパイ」の設定を使ってるだけなら、まあ目の付け所も新しくて悪くはないが、せっかくの題材を惜しいと思う。そこの詰めが甘いから、何だか古きよき時代ののどかなスパイ映画のようにさえ見えてくるし、アンジェリーナ・ジョリーの演技がうまくて、複雑で重苦しいソルトの内面を一応きちんと表現しているだけに(彼女が歴代の007や、トム・クルーズのような単純で明るいスーパースパイをやってるなら、いっそまだ異和感もなかったろうが)、パワフルなのにスカッとしない。

こんなところかなあ。要するに、楽しめれば楽しめるほど、妙なもやもやも残ってしまう奇妙な映画になっている。

うう、こんなおおざっぱな映画にこんなに時間をさいていたのでは、「告白」の感想がどんなことになるか、考えただけでも恐ろしい(笑)。

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カツジ猫