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「ハングオーバー!」感想(1)

まじめな映画なんだよなあ(笑)。
第一、動機がまっとうじゃないか。主人公たちが必死で悪あがきしていろいろ苦労する、その努力の目的が。

ハングオーバーとは二日酔いという意味だそうだ。結婚直前に新郎と二人の友人、それに義弟(新婦の弟)が独身最後のバカ騒ぎをしようとラスベガスに乗りこむが、義弟が怪しげなドラッグかなんかを酒にまぜたため、全員が悪酔いして翌朝ホテルで目が覚めたら前夜の記憶がまったくなく、へやの中はぐっちゃぐっちゃで、新郎は消えていた。とりあえず式に間に合うように新郎を見つけて連れて帰らなくては、という話。全世界でヒットした極上の喜劇で何か賞もとって評判になったのに、日本じゃ公開されなくて、署名運動が起こってやっと公開されたそうな。

変なことを気にするが、この映画の主人公って誰だ?というと、映画の大半いなくなって皆にさがされてて、画面には登場しない、新郎みたいに思えてしまう。別に私は彼がきらいじゃないけど、ものすごく魅力的と思ってはまってるわけでは全然ない。それでも登場場面は少なく、多分ギャラも他の三人より安いかもしれず、なにしろ全体を通して肝心などたばた場面にはほとんどいない、彼の印象が非常に強く、ふつうに主役に思えてしまう。

それは多分、それだけこの友人二人と義弟とが、彼のことを真剣に心配し、さがしもとめるからだろう。「ゴドーを待ちながら」のゴドーじゃないが、ナルニア物語のアスランじゃないが、ドン・キホーテのドルシネア姫じゃないが、姿を見せなくてもいなくても、だからこそなお、彼が作品の要にいる。彼をさがし、救い、連れ帰ることが全編、終始一貫、三人の目的で、そこにはまったくゆらぎがない。もうあんなやつどうなってもいいとか、ほっといて帰ろうとか誰も一度も考えず、大変な苦労や危険をおかしつづける。アホらしいにはちがいがないが、危険で苦労なのはまちがいない。それでも彼らは、めげないし、くじけない。もう選択の余地ない至上命令として、消えた友だちをさがしつづける。指輪を火口に放り込む使命をおびた誰かさんより、その姿勢にはゆらぎっちゅうものがない(笑)。

結婚式前のゆううつは、「マイ・フェア・レディ」の「けっこんしきのかねーがー、ディンドンとなりわたるー」という、かの名曲でも歌われてるが、新郎の悪友たちにとってはやはり友人をある意味失う淋しさがある。バチェラーパーティーは悲しみとともにこれまでの、自分たちだけのものだった友人を葬る葬式みたいなものでもある(ほんとかな)。これまでの友人第一の世界から、彼は妻のものになり、やがて子どもの父になる。
そういう、自分たちが切り捨てられる世界に新郎を無事に送り込み、妻のもとへちゃんと届けるために彼らは必死で奮闘する。泣き言も言わず、弱音も吐かず、恨み言も言わず。なんだかけなげで、いじらしい。
ざーとらしく言いますが、私は女性だから男性の気持ちなんかわからない(いっぺん言ってみたかっただけ)。でも、この作品が世界でヒットした原因のどっかに、そういう切なさをこっそり感じた男性たちの存在って、そういうひそかな共感って、まったくなかったのだろうか?(つづく)

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カツジ猫