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「プレシャス」感想(2)。

つづけまーす。

なので、冒頭、教室で黒い小山のように、巨大な肉塊のようにどたっと座っている彼女見たときから、反射的に「わー、カッコいい、魅力的、いつまでも見ていたい」と思ってしまった。だから、彼女を見てられるだけで、至福とまではいかなくても、実に快い時間でした、映画が終わるまでずっと。

そりゃ私のような人はめったにいないでしょうから、観客のために、彼女の周囲は先生から友だちから、悪役みたいなおかーさんから、皆それぞれに美人を使って、目の保養サービスをちゃんとしてくれてます。でも、そういうきれいな人たちが、プレシャスの前ではどっかもう私には貧弱にみえ、平凡にみえ、薄味にみえ、色あせてみえ、ものたりなくてつまんないんだよなー神さま(笑)。
彼女のぶっとい身体、手足、ふてぶてしい顔、何もかもが「あー、いーなー、こういう風になりたかったのに私、どこでまちがえたんだろ、初心を忘れてたなー、反省しなきゃ」と思わせるぐらい素敵でした。

こんなのって私だけなのかな。だってあの女優さん、身体も顔も、どっか風格、品格、貫禄ありますよね。哀れっぽさやみじめさやいじましさがないでしょう? 
映画の批評するのに他の映画の悪口は言わないことにしてるんですが、そのタブーをおかして言うと、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の主人公は女優さんの名演もあって、私はもう見たあとで目を洗眼し、シャワーを浴びようかと思ったぐらい、汚いものにふれた気がして、同じ悲惨な主人公でもほんとにとことん、いやなものを見たとしか感じなかった。もう、こう書いていてさえ、映画のタイトルとあの役のこと書いてさえ、パソコンが汚れるような気がします(笑)。
比べるのも滅相なぐらいだけど、プレシャスには、そういう情けなさや愚鈍さがない。悲惨な境遇への彼女の対応は、ここまでカッコよく描いていいのかと思うぐらい、雄々しくて女々しくない。
だいたいですね、冒頭、彼女は勝手な妄想の相手である男性教師を困らせる同級生をはったおすんですよ。愛するものを守る前向きな精神を彼女はその根本にそなえてる。

この映画の最初から最後まで、彼女はずっと、まちがってない。めげず、やつあたりせず(ちょっとはするか)、慎重に、懸命に、せいいっぱい考えて、苛酷な現実に対処してる。ちょっともう、崇高なほどに。
それは実は珍しいことじゃなく、虐げられてる人たちって、みんなこうなんだと思います。中には耐えられず、こわれたり、ほろびたりする人もいるけど、その人たちも、そうなるまでは、せいいっぱいに、そうしていたんだと思います。
プレシャスが特に偉大なわけでさえない。こんな人は世の中のどんぞこに、いっぱいいるんだと思います。

えてして、そういう人たちは、賢くて強いからこそ、弱音を吐かず、沈黙する。私が印象的だったのは、あれだけ豊かな妄想世界を持ち、あれだけ苛酷な体験をしながら、彼女がしゃべり、書くことにあれだけ苦闘することです。もー、常日ごろ、ことばをたれ流しまくりの私としては肝に銘じておくべきだけど、口を開けず、文字を書けない人の内面には、あれだけ豊かな語られるべきものがつまっているのだよな。潜水服は蝶の夢をみるとかヘレン・ケラーとかホーキング博士とか皆そうだけど。

わー、また切るかな。すみません。

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カツジ猫