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「ホワイト・サンズ」という映画(2)。

◇(2)まで書くほどの話でもないんだけどなあ(笑)。

さっきちょっとアマゾンの映画評で見たら、この映画コメントが二つしかついてなかった。それほど悪い映画でもなく、まあまあ普通の犯罪捜査物だったと思うんだけど。あらためて確認すると1992年の映画だし、私は映画館で一回見ただけなんで、もはや内容もよく覚えてない。

なのに、しっかり思い出すのは、主役(多分)の刑事か捜査官か何かが悪の組織に潜入捜査してる時、敵側のナゾの美女から迫られて(むろん性的な関係を)拒絶して相手をしなかったからだ。
今ならそんなに珍しくないだろうけど、20年前はこれはほんとに珍しかった。ていうか、私の感覚じゃ、あり得なかった。彼は潜入捜査してるし、相手方に疑われちゃおしまいだし、その美女のごきげん損ねちゃまずいし、つまり、彼がそこで美女のお相手をして、しっかり彼女を抱くのは許されるどころか、そうするべきな設定だったし、もちろん007なら抱くに決まってるけど、そうでない普通のスパイや刑事でも、そこはそうして、ちっともおかしくない、誰からも責められるわけはない状況だった。それでも彼は落ちなかった。

彼は結婚してて、愛する奥さんとかわいい男の子がいた。だが、そんなこと、この手の映画の、この手の場面じゃ、何の問題にも障害にもならないというのが、多分当時の感覚だった。私はそのころまだ、海外ドラマを全然見てなかったから、その方面ではちがったモラルや感覚が生れていたかもしれないが、少なくとも映画では、絶対にそういう時に男は女を抱いて性交渉にいたるのが普通だった。

こんなに私が断言するのは、その時受けた衝撃をいまだに覚えているからだ。私の知る限り、そんな主人公は映画の中でそれまで見たことがなかった。変人でもなく、聖人でもなく、ごく普通の男が自然にそうやって、夫としての貞操を守るのは。

◇演じていたのはウィレム・デフォーだ。私は彼のファンだったから、ただ彼を見に行ったのだが、ファンである理由のひとつは、この人ときたら、どんな役をするのか、まったくわからないからで、最低最悪の悪人なのか、キリストもどきの(あ、キリストも演じたんだっけ)聖人か、平凡なうじうじと気弱な男か、吸血鬼か、もうふたを開けてみないことには、まったく予測もできないところにある。
それもあって、この主人公が何をするか、しないかは、まったく見当つかなかった。それだからなおだったのか、彼が拒絶したとき「え!? 今の何?」とわが目が信じられなかったし、すごくありがたい、思いがけないプレゼントをもらってしまったような気がした。

そこで彼が女と寝たって、私は全然失望もしなかったし不快にもならなかったろう。それほどに、「戦う男は緊張の中で、つかの間の安らぎとして、女を抱くのは自然な生理」という常識は、私の中にも刷りこまれていた。疑わないわけではなかったけれど、不快でないわけではなかったけれど、言ってみれば、ゴキブリがこの世にいるのはしかたがない事実というような、目をそむけたい、考えたくない事実として、私はそれを認めていた。

私はラッセル・クロウのファンでもあるが、それもかなり大きな理由のひとつには、彼が女性に誘惑されるのではなく強引に半分レイプされる演技を、これも今では珍しくもないが、まだそんなもの皆無の時代に、思想でも信条でもないおそらくはただ優秀な俳優の良心として、きっちり演じてくれたことへの、深い感謝の念がある(リンクしている「ラッセル・クロウファンサイト」収録の「『クイック&デッド』の魅力」http://www5a.biglobe.ne.jp/~hr-f/jubakosan_44.html参照。長ーいですけど。笑)。それほど強烈ではないが、同じほど深い印象で、デフォーの演じたあの場面は「とてもありがたい贈り物」として、私の中に刻まれている。

うう、まさか(3)まで続くとはなあ。いったん、切ります。

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カツジ猫