「告白」感想。
えーとね(笑)。
もう、何から書いたらいいもんか。
さしあたり、原作を読んでみようかと思いながら、何となくやめている。あ、もちろん原作も名作なのかもしれないし、いずれは読む気でいるのだが、映画を思い出すほどに、「ひょっとしたら、もとになった小説は相当つまらんか、くだらんのじゃないか」って気がしてしかたがない。ちがってる可能性も高いので、ごめんなさい。
ただ、そう思えてしまうぐらい、この映画は映画として成功してるし、よくできてる気がするんですよ。映画としての構成や演出や、俳優たちの演技やが、すごく大きな役割を果たしている、ほとんどそれだけで構築されてる名作なのじゃないかって思ってしまう。
だからもう、テーマがどうとか教育がどうとか親子がどうとか、そんなこと完璧にどーでもいいんで、よくできた映画をうっとり楽しむ快感に身をまかせとけばそれで充分って気もする。
全編、思い出してもひょっとしてモノクロじゃなかったかというぐらい抑えた色調。血の赤も制服の青も、記憶の中ではすべて灰色や黒に思えてしまうほど、さえざえと沈んだ寒色。その中で語られる殺伐とした荒廃しきった世界の無機質な美しさ。廃墟マニアや工場マニアの気持ちが理解できるような、荒涼とした無残で非情な風景。これに比べたら「ソルト」はもちろん、「ボーン」シリーズも、「バイオ・ハザード」も、私はちゃんと見てないが多分「ソウ」シリーズでさえ、にぎやかで暖かく、人の血肉のぬくもりを感じるだろう。
俳優たちがまた、誰ひとり浮いてないし、はずしていない。生徒役の子どもたちまで皆、無駄なくきっちり計算されつくした演技と表情をし、何よりその役にふさわしい外見をそなえている。よくあんな役者をそれぞれの役に見つけてきたなあ。
研究者になって子どもを捨てるお母さんなど、歩き方から表情から、そもそも外見から、もうあれ絶対、女性研究者だ。大学に数十年いた私が太鼓判押すからまちがいない(笑)。せりふなんか、あったかなかったかさえ覚えてないが、そこにいるだけで、あー、この人そりゃ優秀なんだろう、研究をやめられないんだろー、離婚して研究つづけたくなるんだろー、それしかないわと思ってしまう。で、それだけの人が子どもにあんなアホな教育するか?という疑問もないわけじゃないが、もうそんなのどうでもよくて、この人がそうだったんだから、きっとそうなんだろう、まあきっと、こういう研究者の母親もどっかにいるんだろうと納得してしまう。
それ言うなら、もう一人の少年の過保護なお母さんもあそこまで行くと非現実的だし、だいたいあんなクラスも、あんな主役の女教師も、どれもこれも誰も彼も、いるかそんなもん、あるかそんなことの世界なのだが、そこがもう俳優と監督のすごさで、そして映画や演劇はそれでいい、それでなくてはいけないのだが、見ていてその不自然さも嘘っぽさも完全に忘れてしまう。それこそ、女スパイが大の男をなぐり倒そうが、中年刑事が飛行機から飛び降りようが、納得して見てしまうのと同じように。
嘘だらけ、作り事だらけなのだが、そこに描かれる人間の心情や集団のありようは嘘ではない。そこが見ている者の血を凍らせ、どこかうっとり酔わせ、かたずをのませ、ひきこまれて我を忘れさせる。よく考えれば、けっこう意外でも何でもない、予想通りの展開なのに、それでも片時も緊張がゆるまないし、退屈しない。
どの役者もすごいのだが、特に主演の松たか子はすごい。この人、「ラ・マンチャの男」でドゥルシネーアやったのじゃなかったっけ?私は舞台でそれ見て、わー、いいなあ、このパワフルな小娘風のドゥルシネーアって、とうっとりしたのだが。
うーん、まちがいだったら不安なので、いったん切って確かめます(笑)。