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「壺石文」続きです。

◇紹介していた江戸紀行の続き。もうちょっとあるのですが、眠くなったのでここまでに。注はまたあとで、つけます。

おらびたけび、なきかなしみて、(た)のみまをさく(頼んで申すには)、『あが君、たすけ給ひてよ。さらずば、とくとくころしてを』といへば、高らかにわらひて、『かなふまじ、かなふまじ。こは、あまつ神のみこともて、さいなむわざぞかし』と、ことあげして(宣言して)、いたくいかりて、いよゝ、つい松のおき、ふりたてゝ、さしあてゝ、やきこがしつゝ、つかみつきて、なげはふりければ、いづこよりか、血にまみれたる白鳥とびきて、やけたゞれたるからだを、ついばむなる、あか狗の同じさまなる二首(フタカシラ)はしり来て、左右の手をかみひこづろふほどに、熊、猿、猪、兎、雉子、山鳥、鯉、鮒など、あまたつどひきて、くらひさいなむまゝに、をたけびたけぶ大ごゑ、山彦にひゞきて聞ゆめり。


山のあなたに柴かりゐたる、をのこら四五人、『あやし、何ならん、いきて見ばや』といひつゝ、彼秋葉ノ社近くよれば、大空に、かれたる声の、神さびたる、ほの聞えて、『なちかづきよりそ(近づいてはいけない。「な~そ」で、「~するな」になる)。とくとく、こと方へまかでよ(よそに行け)、長ゐせば、あしかりなん』といへば、俄にえり寒きこゝちして、さあを(蒼白)になりて、ちりぢりに、あがれ帰れり。
ほとりの人々(男の近在の人たち)に『しかじかの事なん侍ける(これこれこういう事があった)』と、かたらひければ、『いきて見てん』とて、貝田ノ駅辺なる、わかうどゞも、三十人ばかり、つい松を手毎に、棒、槍などとりさうどきて、かの、よつあなといふ処に、いたれりければ、けおそろしく、玉くろ、しゞまるこゝちして(魂もちぢむ気分で)、皆しぞきにしぞくなる(退くばかりだった)。十日の夜の月もいりはてゝ、をぐらき山路の岩かげに、かしらあつめ、かゞまりゐて、夜の明るをぞ、まちたりける。
からうじて山のは、しらみゆくに、秋葉ノ社近くすゝみよりて見るに、草村のうちに、うめき、もごよふ物有。人々かしらの毛ふとる(髪の毛も逆立つ)こゝちして、ためらふほどに、ひとり、ひたぶる心なるあらを(非常に勇ましい男)、草かき分てみてあれば、やけそこなはれたる人の、ものをもいはず、しにもはてざるなめり。やうやう朝日さしのぼれるほどに、『かれぞ(彼だ)』と見あらはしたる。口々におどろかせど(呼び起こしたが)、いらへ(答え)もせず、たゞ、ひえにひえいりて、ほとほと、しぬべきさまに見えければ、かれが方に人はしらせやりてけり。(続く)

◇動物たちが復讐しに来て彼を食い荒らすのはいいけど、鯉や鮒がどうやって来るんでしょ(笑)。まあ気持ちはわかるけど。

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カツジ猫