「大学入試物語」より(17)
まあこんなことは、わざわざ書くまでもなく、黙って一人で考えていればいいことだ。それでもつい書いてしまうのは、なぜか私は望みもしないのに予想もしない相手からいきなりライバルや目標にされることがあり、これが私には大変迷惑なことがある。
もっとも最近はあまりそういうこともなくなったようだが、これは私が「世の中も少しは進歩したのかね。結婚しろとか子どもを作れとか、あまり言う人がいなくなったし」とか言って、「若い人は今でも言われてますよ」と、あきれられるようなもので、もはや私を第一線の研究者として扱う人がいなくなっているからかもしれない。
だからもう書かなくてもいいようなものだが、だからもう書いてもいいことかもしれないから書いておくと、まあこれも下手したら相当いやらしい逃げになるので、あまり言うこっちゃないのであるが、私はいつも学校の勉強にせよ、古典の研究にせよ、学生指導にせよ、それが本来の全力投球すべき自分の仕事や生きがいと感じていなかった。したいことや、めざすことは、いつもどこか他にあって、それは非常に遠くのようでも、微妙にずれた近くのようでもあったが、とにかく何か別のもので、それをめざし、やっていることの目くらましとしての仮の姿で、自分は研究や教育をやっているという感覚があった。