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「学問のあるロバの話」と男性の料理

なんかもう、国会中継その他を見聞きしていても、日本はもうおしまいじゃないかと、さすがの私も思い始めた。野党のせいでも国民のせいでもない。ひとえに政権界隈の劣化がひどい。いくら野党ががんばろうが、国民ががまんしようが、もうとりかえしのつかないぐらいの水域に達しているんじゃあるまいか。

一番最近のことでいうと、あの「放送法」問題だ。やっぱりというしかないが、アベがマスメディアを監視して圧力をかけることをめざした件。あれだけ事実がはっきりしているのに、まだうだうだとごまかしまくり、テレビもラジオもろくに追求もしない。

私がつくづくうんざりするのは、全番組をチェックして政府に批判的なものがないかを調べて圧力をかけるという作業を、マジで政府がやってたことだ。エゴサーチではあるまいし、政府でも個人でも自分の評判や評価を気にしてチェックしはじめたら、時間がいくらあっても足りないし、だいたいそれで成長するとか発展するとかいう要素がないだろ、人間的にというか知性感性すべての面で。

海外ドラマの「ハワイファイブオー」で、ホテルの監視カメラの映像を主人公たちがずっとチェックしながら、退屈で面白くないとぼやきまくっていた場面を思い出す。まさか首相以下が毎日見ていたんじゃないだろうけど、それなりのスタッフや役人が監視して見てたってわけだろ、膨大な番組の録画を。国民の実態を調査するんでもなく、政治経済哲学その他の勉強をするんでもなく、本や映画や芸術にふれるでもなく、貴重な時間を湯水のごとく、そんな作業についやしてたんだろ。霞が関もどこもかしこも劣化して鈍感になりバカになるわよな、そりゃ。そうやって時々刻々毎日毎日バカになる時間の給料はもちろん私らの税金だし。えーかげんにしろ。

まあさ、何十年も前に大学運営その他社会全般に「評価」の視点が導入しはじめられたとき、こうなることはうすうす予想してたけどね。評判を気にし、それがよくないと迎合ならまだしも、力づくで変えようとする。

それやこれやでうんざりして、国会中継もあまり聞いてないのだが、先日与党の質問で、災害時の避難所などの運営に女性の参加をみたいな要望をし、政府もそれにこたえて、「女性の視点をとりいれる」必要を連発していた。けっこうなことだが、どれだけ実態をわかってるのかね。差し入れの生理用品を男性リーダーがいらんとつっかえしたなんて話は有名だが、それ以外にも私が知人に聞いた話では、避難所では女性が食事作りを担当させられ、それは無償、その間に男性は戸外の作業に出て、それには手当てがつくとかというのもあったらしい。だから女性たちはできる限り早く、避難所を出て行ったってことも聞いた。

こういうのって、家事が無償という平時の感覚がそのまんま移行してるから起こる現象だと思うのね。母の介護の時のケアマネさんやホームの人との関係でもしょっちゅう実感したことだけど。

少なくとも私は「異次元の少子化」についちゃ、岸田首相よりよっぽど効果的な対策を思いついてて、それは家政婦とか執事とかお手伝いさんとか秘書だとかを、ぐっと専門的な高級職にして、しかも雇う方はリーズナブルな価格で、家事や雑事を職務化してしまえば、相当世の中は改革できるはずってこと。ただそれは、今の世間一般の家事労働への感覚が画期的に改善されないといけないってことが前提条件だからなあ。

最近、岩波少年文庫を読んでて、『学問のあるロバの話』もなかなか面白かったのだが、その中のひとつは、主人公のロバが最後に落ち着く大きなお屋敷(「お城」と訳してある)の子どもたちが、料理を作って遊ぶ場面が相当詳しく楽しく書かれていて、

「わたし、オムレツ作るわ」カミーユがいいました。
 「わたしは、ミルク入りコーヒーよ」マドレーヌがいいました。
 「わたしは、カツレツ」エリザベートがいいました。
 「ぼくは、冷やし肉のヴィネグレット」ピエールがいいました。
 「ぼくは、ジャガイモのサラダ」アンリがいいました。
 「ぼくは、クリームをかけたイチゴ」ジャックがいいました。
 「ぼくは、バタパン」ルイがいいました。
 「わたしは、おさとう」アンリエットがいいました。
 「わたしは、サクランボ」ジャンヌがいいました。

というように、作る料理を決めている。ピエールとアンリとジャックとルイは男の子。皆、十歳前後じゃないかな。このあと、料理の作り方やら失敗しそうになる者やらあって、最後は皆で楽しく食べるまでが詳しく楽しく描かれる。

フランスって別に女性の権利が強い国でもないはずだが、一八六〇年に書かれたこの童話で、少年たちが少女たちとまったく同じように(むしろ手がこんでないか?)自分の料理を作っているのなんか、今読むと驚く。幼少時にこの場面を楽しく読んで、自分のイチゴ料理の見た目が悪くて人気がないのを悲しむジャックが印象に残ったりしていた私の記憶の底には、「料理は女性だけが作るもんじゃない」って感覚もきっとどこかにあったんじゃないかしらん。

あ、きゅうりがあまってたから、じゃがいものサラダでも作ろっかな(笑)。

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カツジ猫