「影の軍隊」感想つづき。
◇朝ご飯を食べながら(そんな風に見るような映画じゃないけど)DVDの「影の軍隊」を見直してたんですけど、これひょっとして、冒頭の収容所の若い共産党員ルグラン君は密告者で裏切り者かもしれないって描き方なんですかね?
原作ではあんなに純粋で献身的で本当に天使のような子だったのに、いいんかいそんなことしても、だいたい共産党への当時のレジスタンスの一員としての原作者の愛情と信頼と崇拝を180度無視してるやんかと、ちょっと笑ったのですけど。
だいたい、この映画見てると、原作に漂ってた明るいユーモアは皆無だけど、それの残響か何かみたいな妙な巧まぬおかしさがあるのよね。裏切り者の(小鹿のような、と私が思う)青年ポールを処刑しようと海辺の空き家に連れて行ったら、隣りの家に急に人が住みはじめてて、銃声が聞かれるから拳銃が使えない、どこか音の聞こえない部屋はないか、台所にナイフはないか、しめ殺すしかなくなってタオルはないかとか、本人待たせて処刑者たちがいろいろ算段してるとこなんか、今だったらタランティーノか誰かが絶対ねらって作りそうなドタバタ喜劇なんだけど、当人たちも監督もとことんまじめだから笑えないけどでもおかしい。あえて言うならそのタランティーノみたいな最近の監督たちが、得意げにねらってやる、そういう場面が、すごく下品で、えらそうに何さわいでんねんあんたと言いたくなるぐらい大げさにみっともなく見える、スマートで鋭い自然で残酷なおかしさだ。
それで、たしかに、これだけ硬質の冷たいきらめきを放つ映画には、あの原作のルグラン君は清らかでうつくし過ぎて、そぐわないんだよね。この第一章は読者へのレジスタンスの紹介も兼ねてるんだけど、ジェルビエが静かに熱をこめて語るレジスタンスの人々の群像、その讃歌とも言うべき語りはまるで殉教者(なんだけどさ)について語る司祭のようだし、ルグランはうっとり耳をかたむけて、「その中に共産党員は、加わっていますか?」と切なく心配して、ジェルビエが「重要な一員として尊敬され愛されている」みたいなことを教えてやると、本当に幸福な歓喜に満ちた表情をして「もっと聞かせて、もっと」とせがむんです。
何かもう、民主党代表選挙で野党共闘で共産党と組むのがどうだこうだっていうのが重要な課題になっている今、このルグランの無私で切ない純粋なことばを聞いていると、こっちまで泣きたくなって来る(笑)。「それで、その連合戦線の中で共産党は嫌われてはいませんか?」って感じで気にしてる、この子のまなざしや息づかいまで伝わって来るようで。共産党って昔から、好かれもするし嫌われもするし、それをこうやって愛する人もいたんだよなあ、と。
ルグランはたしか両親が共産党員で、自分もそうだけど、活動とか何もまだしない内に収容所に入れられちゃって両親とも引き離されてるんですね。だから実際の戦いはまだ何もしていない。本当の子どもです。でも、今あらためて読み直して見ると、こんなに美化していいのかと思うぐらい本当に彼は完璧にいじらしくて、かわいい。アンドレ・ジイドの「贋金作り」などのフランス小説に登場する、無垢な美少年たちそのもので、そしてジェルビエの彼に対する優しさもそれらの小説と同じです。いやもう腐女子やボーイズラブ愛好家が読んだら狂乱して死にそうなほどです(笑)。
今考えると私だって腐女子の要素が充分だったのに、よくもまあこのルグランに目がとまらなかったものですね。多分作品全体の迫力のすごさに、もうそういうボーイズラブであれ何であれ恋愛脳が機能しなかったんだと思います。
誰かもう一回、この小説、この甘い恋愛路線映画でリメイクしないかな。無理だろうけど。でも本当にせめて二次創作でもやってほしいよ。
彼は電気関係の仕事をまかされてるので(「人間の条件」といい、この職場は重要だな)、それを利用してジェルビエと脱走しようとするのですが、結核にかかって足手まといになるからと、自分は残ります。「君のしたことをつきとめて、やつらは君をひどい目にあわせる」とジェルビエがいっしょに逃げることを勧めても、彼は「これ以上やつらがぼくに何ができますか?」と言い、自分が仲間の世話になるために逃げるようなことはしたくない、「ぼくは自分のレジスタンスを、そんな風には始めません」と言って、殺されるために残るのです。自分のレジスタンスをそうやって始めるために。
ああそうそう、彼がそれまで脱走しなかったのは、病気で死にかけていた友人の若い教師のアルメルを見捨てて行けなかったからです。この教師はクリスチャンでしたが、二人は友人で、アルメルが死んだとき、ルグランは淋しがって悲しがって、それを慰めるためにジェルビエはレジスタンスの話をするのです。
そのくだりを読み直したのですが、ああ多分、当時の私がルグランにはまらなかったのは、彼があまりにもかわいらしすぎたのですね(笑)。もっと子どもの、小学生のころだったら、私の理想のタイプだったと思うけど。あまりにも無垢で、傷つけそうで恐かった。ジェルビエとの仲に嫉妬したのかもしれません。
で、その若い先生アルメルは、映画ではジェルビエとはことばもかわさないまま死にます。でも原作ではしゃべっているのよ。「どうして、ここへ入れられたんだ?」と聞いたジェルビエに、目を開く力もないまま、若い教師は言います。「まさか、子供たちに、ユダヤ人やイギリス人を憎めなんて絶対に教えられませんでしたからね」って。
これは、まだフランスがナチスの傀儡政権に支配され、レジスタンスへの残虐な弾圧がつづく中で書かれた、事実にもとづく小説です。絵空事でも空想でもない、小説のかたちをとったドキュメンタリーといってもいいほどです。
この教師のことばも、事実にもとづくのでしょう。この教師の運命も。
今私たちが戦い、くいとめようとしているヘイトスピーチをはじめとした他国民への憎悪。それは放置しておけば、やがては、こうやって、命をかけてくいとめなくてはならなくなってしまう。
◇おおっと、朝から大学に書類を届け、家の前の掲示板の中身を張り替え、水をまき、ごみを出し、こまねずみのように働いて、ついパソコンの前に座ったらこれかよー。
先日の夜、強烈にすいかが食べたくなって悶絶したので、昨日の夕方、もう売り切れてるよなあと思いつつ買いに行ったら、ばっちりたくさん残っていて、他にもおかずや食べ物を買いこみ、ポイントもクリアして値引き券を二枚もゲットし、今はいろいろおいしいものがぎっしり冷蔵庫に