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「阪急電車」の悪口(3)。

同じ女優さんが演じた「嫌われ松子」のような人なら、かん違いの情熱で、このぐらいの変なことはやりかねない。ただし松子は誰かを幸福にし世の中を正しくするといった、それこそ歯の浮くようなヒューマニスティックな立派な理由がなければ、こんなことは決してやらない。そこが松子の立派なところだ。だが、そこを何か世のため人のため愛する者のためになるとかん違いすれば、松子なら、こういうとんでもない行動もやりあげるだろう。

しかし翔子は、松子のような愚鈍さは皆無で、聡明で冷静でバランスのとれた人であることが、作品全体の描写から伝わる。しかもけっこうきちんと伝わる。だいたい、バカでえげつない小娘にひっかかったうかつな恋人から婚約破棄を告げられて、その場で泣きもわめきもコーヒーぶっかけもしなかった人である。「かわいげがなくて損をする」理性的な女性である。と描かれているんである。
そんな人が長期にわたって、ドレスや化粧や美容院の予約や何やかやをして、一度もわれに返らず、冷静になれず、自分でおかしくなって吹き出さず、あんなとんでもない行為を完遂させられるか、どう考えても疑問である。

ええと、すみません。夜もしんしんとふけてくんで、残りは明日また、補充します。乞うご期待(笑)。

翌朝です。つづけます。それにしても、やだやだやだ、この悪口って、ひょっとしたら(10)ぐらいまで行くんじゃないのか。これっていうのも何だかだって、よくできてる小説だからで、こーゆーいちゃもんいろいろつけて、思考も会話も活性化して発展するって、やっぱ作品としちゃ貴重なこってすよ。
とか何とか防波堤つくっておいて、もう少し。

まー、前にも書いたように、もともと私という人間が、こいつアホだとか、つまらんやつと思ったら、そのとたん、そいつに関する関心すべてを失って、この人生の大事な時間の1分1秒でもそいつのためには使わんと思ってしまうところがある。更に言うなら、そいつの思い出や記憶の中にさえ、この私のようなすばらしい人間の映像を残してなるかという気になる。そいつの頭と人生の中を歩き回って、自分の痕跡すべてを消してこなければ、そんなつまらんやつの記憶や思い出の中に残されて、閉じこめられてる私の映像が、映像ですらも、かわいそうでならない。

翔子さんが自分をどう評価してるのかは知らんが、多分、自分を捨ててくだらん後輩にのりかえた時点で、婚約者の男はアホだと思っているのは一応(あくまで一応)たしかだろう。見て(読んで)るこっちも、だいたい一応はそう思う。だが、だったらもう私なら、そんなバカ男とバカ女のカップルなどに、さわりたくもないし近づきたくもないし、結婚式に出ようという発想がそもそも思い浮かばない。
だいたい、翔子さんは、「二人の結婚式の思い出を美しい楽しいものにしてたまるか。いつも、その思い出にともなって私のことを思い出さずにいられないようにしてやる」みたいな発想で式に臨むわけだけど、くりかえすけど、どんな聡明な人でも5分か5秒か我を忘れて、ちらとそういうことをヤケっぱちで考えることもあるにしろ、長々と数日数週間も、その考えを維持できるのか? フツーに考えて、それは、自分にもけっこう一生忘れられない鮮烈な思い出になり、どー考えても自分の幸せな結婚式のときに、よみがえってくる思い出でもあるだろうが。別に翔子さんみたいに、とりわけ聡明な人でなくても、そのくらいのこと、普通に思いつかんかい?

私は婚約者と後輩のカップルが、そんなにアホか卑劣かということもわからないけど、どっちにしても彼らはあれだけのことしたんだから、そのくらいの被害やリスクはまあしゃーないだろうかなと考える。しかし、この「討ち入り」で思い出を傷つけ汚されるのは、何も彼らだけじゃない。むしろ翔子の方だ。そんな犠牲を払い、リスクをおかしてまで傷つけるほどのタマか? あのカップルはさ。
それとも翔子さんは、将来自分にそんな幸せな結婚が訪れることはもうないと、すでに人生投げてるんかい? 自分の未来もすべて汚しつくす思い出作りをする覚悟で、乗りこんで行ってるのかい? あんまり、そんな風にも見えんのだけど。

私は人に傷つけられるのも殺されるのも、もちろん嫌いだけど、相手が人生かけて、すべての心血そそぎこんで、完全犯罪めざして、その上でターゲットにされ犠牲になるんなら、まだあきらめがつく。一番やりきれず、ムカついて、化けても呪っても足りないのは、バカが甘い見通しで、人を傷つける、覚悟なしの手抜きの悪意の対象になることだ。
人を傷つけ、幸せをぶちこわそうと思ったら、決死の覚悟で全力投球で完璧な仕事をめざさないといけない。それがいやだったり、手に余ったら、やるべきじゃない。
でも、翔子さんのやり方は、そういう点で、ものすごく、見通しがいろいろ、甘い。

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カツジ猫