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「阪急電車」の悪口(4)。

こーゆーことあれこれ言ってると、作者がライトノベル出身だから、そんなこと要求しても無理だとか言いだす人もいそうだが、そういうことこそ、この際誰にも言ってほしくない。ライトノベルだろうがケータイ小説だろうが純文学だろうがポルノだろうが、きちんと書く人はきちんと書く。こういうことは、そんなジャンルや経歴には関係ない。そんなこと言い訳にしたら、他のライトノベル作家に第一失礼だろうがよ。

で、もしかしたら翔子さんは、私同様(笑)たよりない、バカなふらふら男というやつが好きでたまらなくて、だからあの婚約者も本人はさめたとか愛想つかしたとか言ってるが、実はものすごく好きで、失って奪われてとことん傷ついて、憎しみの極致で、半狂乱で、それこそ数カ月はおろか数十年かけても、その怒りや怨念はおさまらず、そのパワーが、ああいう行動をとらせたという解釈なら、まあそれは可能だ。ていうか、それが一番可能だろう。

でも、その場合、彼女はそういう自分というものを絶対に見ようとしてないし、向き合ってもない。まあ小説だから、そんなのはどうでもいいことだが、そこをあえて、電車に乗り合わせた人みたいに、彼女の今後の幸福に思いをはせて考えてやると、彼女のこの状況って、相当どころではなく、ヤバい。ヤバすぎるなんてものじゃない。
彼女は冷静にふるまい、バランスをとろうとしているが、実はとことんこわれている。あんな行動を最後までやるためには、狂気でなければならず、そこには裏切られたくやしさ、男への深い愛があるのだが、それを認めようとしていない。ぎりぎり、ちらっと最後に、認めてはいるけれど、どうしてこうなったか、何が問題だったかに、まったく向き合おうとしていない。

まー、私は彼女のセラピストでもなきゃ友人でもない。それに小説としちゃ、それはどうでもいいことだ。こんなことまで考えてやるなんて、もしかしたら私は最高に親切な読者なのかもしれない。
で、野暮は承知で、もう少しつづける。
別に私でなくても、普通の人なら、わりとこういう時、「私の何がいけなかったのか」「なぜ、あんなつまらん女に乗りかえられたのか」「あの女にはどこかいいところがあったのか」とか考えて、どんどん落ちこむだろう。
翔子さんは、ちょっと異常なまでに、そんなこといっさい考えない。それが読んでる人には快いし、彼女がカッコよく見えるのかもしれない。
しかし、まったく、ちらとも、こういったことを考えないというのは、やはりちょっとすごい。すべては、後輩の女が妊娠して男をひっかける確信犯の凄腕だったことで解決され、説明されていて、彼女はそれ以上は完璧に思考を停止する。

まあ、どんどんそういうことを考えて自信を失い、ひきこもり、手首切ったりする人は実際かなり多いだろうから、それに比べりゃ、相手の女が悪くて、ほれた男がバカだったことにして、結婚式ぶちこわしに行く方が、ましだし健全かもしれない。
それに、これも多分私だけじゃないと思うが、「君は強いから」と言われて、どう見てももっと強いカマトト女に男に限らず、いろんなものを持って行かれる体験って、愚痴を言わずにがんばる女(男もな)にはわりと多いだろうから、かねがね一回常識外れの過激な行動でしかえししてみたいという欲望は、がまん強い人の中には常に相当くすぶってるはずで、そういう意味でも「私のやれないことを、やってくれた」という、ひそかな共感を呼ぶのだろうと思う。

でもなー。
そういう女性たちすべてにしろ、翔子さんにしろ、私はやっぱ、ひきこもって手首切らない程度に、落ちこんで暗くなって、自分にとってとことんいやな解釈で、現実を見つめてみる、というトレーニングも、しとかなきゃヤバいと思うのよ。
ああいうパワフルなカマトト女が、いつもそのへんにいるとは限らないから、この次は、同じようにちょっとアホの弱い優しい男と恋しても、うまく結婚までできて、死ぬまで幸福になれるかもしれないよ。でもそれは、あくまで偶然、運がいいんで、また次も、将来何度も同じことになりかねない。そのたびに、自分を肯定だけして、相手に攻撃かけてうさばらししていたんじゃ、「嫌われ松子」以上に救いのない人生が待ってる。

はーーーもう、私は何と親切なことかと、だんだんいやになるけど、つづけるわ。

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カツジ猫