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「阪急電車」の悪口(5)。

って、だんだん悪口ってよりエール送ってるのかもしれんって気分になってきてるけど(笑)。

一般的に、あんな後輩にあんなかたちで男をとられても、「私がいたらなかったから」「あの女性にもいいところがあるのかも」と真剣に考えて、落ちこむ女性が多分、今でも現実には多い。小説やドラマでも、そういう設定が多分多い。それも、いいかげんに、マンネリに。

だから「私が正しい。私は悪くない。相手はバカだ、で切り捨てなさい」というアドバイスとしては、この小説の設定と展開は悪くない。大胆で、新鮮でもあるし、取り入れるべき視点だとも思う。
でも、それはあくまで応急処置の即効薬であって、基本的には「あんな女に好きな男を取られないように」「あの女の魅力と、自分の弱点も理解しておかなくては」ぐらいのことは考えておかないと、また同じ失敗をくりかえす。
こと恋愛に正義なんかない。あるのは勝利と敗北だけで、翔子さんは今回たしかに敗北したのだ。そのことは認めて、敗北の原因は知っておかないと、敗北だってムダになる。

特に、黙って何もしないならいいが、たとえ精神安定のためでも狂気をなだめるためでも、あれだけの行動を実際にしようと思うなら、それで得られる成果と失うものについては、もっと考えておくべきだ。

実は私が、翔子の結婚式討ち入りで、一番げっと思い、やめとけよーと思うのは、「そんなことしたら、どんなに彼が好きだったか、くやしがってるか、負け犬かを、白昼堂々天下に公開することになりますがなあんさん」ってことだった。
あのカップルもまた、いい人たちというか、素直というか、翔子を見て「自分が手に入れそこなった美しい女」(翔子解釈)と思うより、私が男だったら、「わー、そんなにおれのこと今でも好きなんか。悪いことしたなー、かわいそうなことしたなー、でもおれってそんなに好かれてるんだなー、魅力的なんだなー、ニヒヒ」か「ひぇー、冷静で賢くてできる女と思って、あこがれて魅力的だったのに、こんなえげつないことすんのかー。すげー、こえー、別れといて正解。やっぱ、おれ何となく感じてたんだよなー、この女のこーゆーとこ」かになる可能性だって、相当ある。どっちも、やですよね。自分が翔子なら。

後輩の女の方も、逆上して「ドレスをかくして下さい」と客室係に黒いストール持って行かせたり、キャンドルサービスのとき「このテーブルの写真はいりません!」って叫ぶとか、けっこうかわいいとこあるじゃないのよ。
ほんとにすごいワルでしたたかだったら、「あ、こんなことするほど、翔子先輩傷ついてるんだー、ウフフ」でしょう、そこは。もっとワルなら、そこでこそ被害者だか加害者だかぶって、「私が悪いんです、こんな目にあってもしかたないんです、大事な人を奪ったんだから、でも幸せです、許して」みたいに、しおらしくかまえて、周囲の同情をここぞとばかり引きますよ。
そういう、もろもろの可能性を翔子ともあろう人が考えなかったんですかね。憎しみで半狂乱になってたら、なおのこと、頭がとぎすまされて、そういう可能性のあれこれにも十分思いいたりそうなもんだが。

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カツジ猫